ゲンナジー・ブルブリス

ゲンナージー・エドゥアールドヴィチ・ブールブリス（Gennadii Eduardovich Burbulis）は、1945年8月4日にソビエト連邦ロシア連邦共和国のスヴェルドロフスク州で生まれ、2022年6月19日に76歳で死去したロシア連邦の政治家です。特にボリス・エリツィンが大統領を務めた政権の初期において、重要な役割を担いました。同郷であるエリツィンの側近中の側近として絶大な権勢を振るったことから、「灰色の枢機卿」という異名で広く知られています。

少年時代は地元の工場で電気工として働き、兵役を終えた後、現在のエカテリンブルクにあたるスヴェルドロフスク市の工場に勤務しました。その後、ウラル大学哲学部で学び、1974年に卒業。この期間にソ連共産党に入党しています。1981年には哲学博士候補の学位を取得し、翌1982年からはエリツィンの母校でもあるウラル工科大学で教壇に立ち、助手を経て助教授を務めました。

政治活動への本格的な関与は、ペレストロイカ期に始まります。1987年にはソ連で初めての政治クラブとされる「討論の演壇」を創設。1989年3月にはソ連人民代議員に選出され、さらに最高会議議員も兼任しました。1990年にソ連共産党を離党。同年1月には、エリツィンがロシア最高会議議長に就任すると、その全権代表および直属調整顧問会議議長となり、最側近としての地位を確立します。

1991年6月のロシア大統領選挙では、エリツィン陣営の選挙参謀として選挙戦を巧みに指揮し、エリツィン大統領の誕生に大きく貢献しました。大統領就任後のエリツィン政権では、国務長官（後にロシア連邦大統領直属国家評議会書記を兼務）、さらに1991年11月からは第一副首相も兼任し、政権内でナンバー2の実力者となります。特に1991年12月、ベラルーシのベロヴェーシの森で行われた会談において、エリツィン、ウクライナのクラフチュク大統領、ベラルーシのシュシケビッチ最高会議議長と共に、ソビエト連邦の解体とその後の独立国家共同体（CIS）創設に関する合意（ベロヴェーシ合意）を主導した中心人物の一人とされています。このソ連解体を巡る重要な役割と、政界の舞台裏での影響力の大きさから、「灰色の枢機卿」と呼ばれるようになりました。

政権内では、急進的な市場経済への移行（ショック療法）を推進するエゴール・ガイダルらと共に、その改革路線を巡る批判の矢面に立たされます。エリツィンと保守派・反エリツィン陣営との対立が深まる中で、ブルブリスの立場も不安定になります。1992年4月に第一副首相を解任され、その後も国務長官、大統領首席顧問といったポストを歴任しますが、わずか1年足らずの間に次々と解任されるなど、政権内の権力闘争の渦中にありました。

政権中枢を離れた後も、政治活動を続けました。1993年12月の下院（国家会議）選挙では、急進改革派ブロックから比例区で当選。しかし、その後ブロックを離脱し無所属となります。シンクタンク「ロシア戦略財団」を創設し、その総裁に就任。1995年には再び下院議員に当選しました。2001年から2007年までは上院（連邦会議）議員を務めました。

国際関係においては、知日派として知られ、1993年の訪日時には北方領土問題について返還の必要性を訴える発言をしています。ソ連崩壊後のロシアについて、スターリン時代以来の膨張主義政策からの脱却こそが、日本との北方領土問題解決を含むロシアの長期的な国益につながるとの信念を持っていたと語られています。

ウラジーミル・プーチンが台頭し、ロシアの政治体制が変化する中で、ブルブリスはプーチン政権に対して批判的な立場を取るようになります。特に2014年のクリミア併合については明確に反対し、2017年にはウクライナのテレビ番組でクリミアをウクライナに返還すべきだと主張しました。ソ連崩壊を「20世紀最大の惨事」と公言するプーチン大統領の下では、ソ連解体に関与した人物として、政治エリートや国民の間での評価は低迷しました。クリミア批判を公にした後は、ロシア国内の主要なマスメディアに登場することはほとんどなくなりました。

ブルブリスは、その生涯を通じて優れた知性で知られました。在ロシア日本大使館に勤務していた佐藤優は、ブルブリスと家族ぐるみの付き合いがあり、彼を「これまで面識を持った人々の中で、最も頭のよい人物だった」と評しています。また、徹底した能力主義者であり、能力不足と見なした人物には冷淡だったため、敵が多かったとも回想しています。

2022年6月19日、訪問先であったアゼルバイジャンの首都バクーで客死しました。

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