コアホウドリ

分類と名称

ミズナギドリ目アホウドリ科アホウドリ属に分類される海鳥で、学名は Diomedea immutabilis です。「コアホウドリ（小阿呆鳥、小信天翁）」という和名は、同属のアホウドリに比べて体が小さいことに由来します。

生息地と渡り

主に北太平洋に広く分布しており、繁殖期以外は海洋上で生活します。夏季はベーリング海やアラスカ湾、アリューシャン列島周辺まで北上して採餌しますが、冬季になると南下し、ハワイ諸島やミッドウェー島、クラリオン島などで集団繁殖地（コロニー）を形成します。日本では小笠原諸島の聟島やその属島である聟島鳥島、さらに嫁島での繁殖が確認されています。

体の特徴

全長は約79〜81cm、翼を広げると195〜203cmにもなります。体重は2.3〜2.8kg程度で、アホウドリよりも小柄です。
成鳥の雌雄はほぼ同じ姿をしており、頭部から体の下面にかけては雪のように白い羽毛に覆われています。一方、体上面は黒褐色で、眼の周りから耳孔を覆う部分にかけて黒い模様が見られます。腰から尾の付け根部分は白く、尾羽の先端は黒褐色です。翼の上面は黒褐色ですが、下面は白く、太い黒褐色の縁取りと一部に斑紋があります。
嘴はピンク色で、先端がやや青みがかった灰色をしています。足もまたピンク色です。

若鳥と雛

コアホウドリは成長しても羽色の変化が少ないのが特徴で、種小名の「immutabilis」は「不変」を意味します。若鳥や幼鳥の羽色は成鳥とほとんど変わりませんが、嘴の色がやや灰色がかっています。生まれたばかりの雛は、全身が先端の白い黒褐色の綿羽に覆われています。

生態と繁殖

コアホウドリは動物食で、主に魚類や甲殻類、軟体動物などを捕食します。海上を漂いながら餌を探します。
繁殖は集団で行われ、毎年11月から12月にかけて繁殖地に飛来します。営巣は斜面の窪みに小石や枯草を敷き詰めた皿状の巣で行われます。12月中に通常1個の卵を産みます。卵は淡黄褐色で、鈍端近くに褐色の小さな斑点が密にあります。大きさは約10.1cm×6.8cmです。抱卵は雌雄が交代で行い、およそ65日間続きます。

長寿の記録

コアホウドリは比較的寿命が長い鳥として知られています。足環による調査では、42年間生きた個体の記録があります。さらに特筆すべきは、ミッドウェー島で確認された「ウィズダム」と名付けられた雌です。この個体は1956年に推定5歳以上の抱卵中の状態で足環をつけられており、その後も確認され続けています。2021年12月には推定70歳の誕生日を迎えたとされています。通常、コアホウドリは8～9歳でつがいになると考えられているため、ウィズダムの実際の年齢はさらに上回る可能性もあります。このウィズダムは、2018年や2022年にも繁殖地に飛来し、雛を育て上げるなど、驚異的な繁殖能力と生命力を見せています。

人間活動と環境問題

かつて日本の小笠原諸島では、1976年に初めて成鳥が発見され、翌年には雛の確認に至りました。
しかし、人間の活動はコアホウドリの生存を脅かしています。ミッドウェー島のような繁殖地では、空軍基地の電線への衝突や航空機との接触事故が個体数減少の一因となっています。また、漁業活動における混獲（意図せず漁具にかかってしまうこと）も懸念される問題です。

海洋プラスチックの脅威

最も深刻な脅威の一つが海洋汚染、特にプラスチックごみです。コアホウドリは海面に漂う餌を食べる際に、プラスチック片を誤って飲み込んでしまいます。親鳥は食べたものを吐き戻して雛に与えますが、その際にプラスチックも雛の胃に送り込まれてしまいます。雛は生後4ヶ月半頃まで胃の内容物を吐き戻すことが難しいため、消化できないプラスチックが胃に蓄積し、餓死や衰弱により死亡するケースが多発しています。写真家のクリス・ジョーダン氏は、ミッドウェー島でプラスチックを誤食して死亡した雛の姿を数千羽にわたり記録し、その現状を「The Midway Project」として発表しました。この活動はドキュメンタリー映画『ALBATROSS』（2017年公開）にもなり、世界に問題提起をしています。プラスチックの他にも、漁船の釣り針にかかって命を落とす個体も多数いると報告されています。

保全状況

これらの複合的な脅威に直面していることから、コアホウドリは環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧IB類（EN）に指定されており、その保護が求められています。

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