コイワヰ

コイワヰ：日本競馬史に輝く名馬

コイワヰは、20世紀初頭、日本の競馬界で活躍した競走馬であり、種牡馬です。その血統、競走成績、そして種牡馬としての成功は、日本の競馬史に大きな足跡を残しました。本稿では、コイワヰの生涯を詳細にたどりながら、当時の競馬界の状況も合わせて解説します。

優れた血統と生い立ち

コイワヰの父は、世界的に名高いセントサイモンの孫にあたるチャッツウォース。チャッツウォース自身はグッドウッドカップで2着という成績にとどまりましたが、その父はエプソムダービー、セントレジャー、アスコットゴールドカップを制した名馬パーシモンでした。一方、母エナモールドは、明治40年（1907年）に小岩井農場がイギリスから輸入した20頭の基礎輸入牝馬の1頭です。コイワヰは、このエナモールドが日本で産んだ仔馬であり、いわゆる「持込馬」でした。

当時、日本の競走馬の血統は不明瞭なものが多く、両親の血統が明確にわかっていること自体が稀有なことでした。そのため、コイワヰの持つ海外の先進的な血統は、大きな魅力として注目されました。さらに、その馬体も、当時の日本のサラブレッドと比べて、現代のサラブレッドに近かったと言われています。コイワヰの甥には、優勝内国産馬連合競走を制したオーロラや、阪神の帝室御賞典を制したオールマインもおり、その血統の優秀さがうかがえます。

コイワヰが生まれた明治41年（1908年）は、馬券発売が禁止された年でした。馬券による社会問題や治安悪化などが原因で、大正12年（1923年）まで馬券発売は再開されませんでした。そのため、コイワヰの現役時代は、馬券が一切発売されない時代でした。当時の主要なレースは、現在も続く天皇賞につながる帝室御賞典と、各競馬場の開催最終日に行われる優勝戦でした。

輝かしい現役時代

コイワヰは、明治44年（1911年）7月、函館競馬の新呼馬競走でデビュー。1600メートルを1分54秒1で圧勝し、鮮烈なデビューを飾ります。その後も4歳時は3戦全勝と好調を維持しました。

5歳になると、鳴尾競馬場の呼馬を制したものの、続く優勝戦では3着と初敗北を喫します。しかし、その後は東京競馬場に移って、呼馬をレコードタイムで勝利、さらに帝室御賞典でもレコード勝ちを収め、勢いを取り戻しました。優勝戦でも、連合二哩（現在の東京優駿（日本ダービー）に匹敵する価値があるとされたレース）を制した強豪ラングトンを8馬身差で破るなど、圧倒的な強さを見せつけました。秋には、横浜の帝室御賞典で4着、優勝戦で3着と敗れるものの、この年12戦9勝という好成績を収めました。

6歳になると、鳴尾競馬場の優勝戦でレツドサイモンに敗れるなど、徐々に成績が下降。秋も優勝戦で2度の敗戦を喫し、年間16戦10勝という成績でした。

7歳では、年初戦をレコードで勝利し、優勝戦も制覇する好スタートを切りましたが、関東での優勝戦は勝てず、秋も1勝にとどまりました。この年は初めて勝率5割を下回る17戦8勝という成績に終わりました。その原因として、現在では考えられないほどの重い斤量（160ポンド、約77kg）を背負わされていたことが挙げられます。関東と関西では斤量に大きな差があり、関東では特に重い斤量を課せられていたことが、成績不振の一因と考えられます。

8歳になると、関東でも160ポンドより軽い斤量で走るレースもあり、安定した成績を収めました。16戦6勝という成績でシーズンを終えています。

9歳になると、年齢の影響か、スピードが衰え始め、3度の着外はすべて1800メートル以下の短距離競走でした。この年は、未勝利馬向けの「撫恤」競走にも出走しています。この年の成績は18戦8勝でした。

10歳まで現役を続け、最終レースでは160ポンドの斤量を背負いながら2着で現役生活に幕を閉じました。現役通算成績は82戦45勝、2着17回、3着12回という輝かしいものでした。

種牡馬としての成功

現役引退後、小岩井農場で種牡馬となりました。当時、日本の種牡馬は海外、特にイギリスの種牡馬に圧倒され、年間ランキングの上位を外国産馬が独占することも珍しくありませんでした。しかし、コイワヰは、優れた血統と実績を活かし、内国産種牡馬として大きな成功を収めました。

その代表的な産駒に、帝室御賞典と各内国産馬古馬連合を制したハクシヨウ（初代）がいます。35戦17勝というハクシヨウの成績は、コイワヰの能力を証明するものと言えます。他にも、アケボノ、イワヰ、キングフロラー、チヱリーダツチエスなど、数々の賞典馬を輩出しました。種牡馬としての成功は、コイワヰの血統が日本の競馬界に大きな影響を与えたことを示しています。コイワヰ自身は1931年に24歳で死亡しましたが、その血統は現在まで受け継がれ、日本の競馬界に貢献し続けています。

もう一度検索