コウ

囲碁のルール「コウ」について

囲碁における「コウ（劫）」とは、対局中に特定の条件下で発生する、非常に特殊な状況を指します。それは、互いに相手の石を取り合うことで、盤面が無限に繰り返される可能性のある局面です。この現象は、囲碁のルールに特有のものであり、対局の複雑さと面白さを際立たせる重要な要素となっています。

コウの基本ルール

コウが発生する基本的な状況は以下の通りです。

1. アタリの状態: ある石が相手の石によってアタリ（次に取られる状態）になっている。
2. 取り返しの発生: そのアタリになっている石を取ると、今度は相手の石がアタリになる。

この時、もし双方が交互に石を取り合うことを繰り返すと、盤面は永遠に同じ状態を繰り返すことになります。これを防ぐために、囲碁には以下のような特別ルールが設けられています。

コウのルール: 一方がコウの石を取った場合、直ちにその石を取り返すことはできません。必ず、他の場所に一手打つ必要があります。相手がその一手に応じた場合に限り、コウの石を取り返すことができるようになります。つまり、盤面全体として同じ形を繰り返すことは禁止されているのです。

コウダテとコウ材

コウのルールの中で重要な役割を果たすのが「コウダテ」と「コウ材」です。

コウダテ: コウの石を取り返せない状況で、相手に一手打たせるために打つ手のことを「コウダテ」と呼びます。
コウ材: コウダテとして使える石の場所、またはその数を「コウ材」と呼びます。コウ争いは、このコウ材の数によって勝敗が左右されることがよくあります。

コウダテを打たれた側は、それに応じるか、コウを無視して他の場所を打つかを選択できます。もしコウダテに応じなければ、コウを仕掛けている側の石を取ることができます。この駆け引きがコウの複雑さを生み出しています。

コウをめぐる駆け引き

コウは、単に石を取り合うだけの状況ではなく、非常に戦略的な駆け引きが生まれる場所です。コウに勝つことで大きな利益を得られる場合もあれば、コウを譲ることで他の場所で有利に立てることもあります。そのため、全局的な形勢判断に基づいて、コウに挑むか、または他の場所に目を向けるかを判断する必要があります。

例えば、ある場所でコウが発生した場合、コウに勝てばその場所全体を自分のものにできる一方、負ければ相手に大きな利益を与えてしまう、という状況もあり得ます。このような場合、コウに勝つためのコウ材をどれだけ持っているか、他の場所でどれだけの利益を期待できるかなど、さまざまな要素を考慮に入れて判断する必要があります。

さまざまなコウの形

コウには、様々な種類が存在します。

ヨセコウ: 一方がコウに勝つために、他の場所で手を詰める必要のあるコウ。
本コウ: 両者とも一手でコウを解消できる状態のコウ。
二手ヨセコウ: コウを解消するために、一方が二手詰める必要のあるコウ。
両コウ: 双方がコウを取り合うことができ、どちらも全体が取られることがないため、セキとなるコウ。
三コウ: 盤面に3箇所以上のコウが同時に発生した状態。双方が譲らない場合、無勝負となる。
二段コウ: コウを解消するために、二つのコウを連続して勝たなければならない形。
三段コウ: コウを解消するために、三つのコウを連続して勝たなければならない形。
万年コウ: コウを仕掛ける側が有利な状況にあるコウ。
循環コウ: コウを巡る手順が循環し、無限に繰り返されるコウ。
花見コウ: 一方にとって負担が軽く、花見をするような気分で争えるコウ。
半コウ: コウを解消しても、半目の価値しかないコウ。

これらのコウは、それぞれ異なる特性を持っており、対局の流れを大きく左右します。

コウに関する用語

コウに関連する用語も多数存在します。

天下コウ: 盤面上に他に引き替えとなるコウ材が存在しない、非常に大きなコウ。
ソバコウ: コウを争っている石の近くにあるコウダテ。
損コウ: コウダテを打つことによって、自分が損をしてしまうコウダテ。
無コウ: 手を抜かれても得をする手がない、無効なコウダテ。
コウ移し: コウの場所が移動する現象。
コウ自慢: コウダテを豊富に持っており、コウが発生した場合に有利に運べる状態。
コウ含み: コウになりうる場所があるものの、すぐに仕掛けず、様子をうかがう状態。
超コウ（スーパーコウ）ルール: 三コウなどの無勝負を避けるため、盤面全体の同形反復を禁止するルール。

コウに関する格言

囲碁の世界には、コウに関する多くの格言が存在します。

初コウにコウなし: 序盤で発生したコウには、それに見合うコウ材が存在しないことが多い。
三手ヨセコウはコウにあらず: 三手ヨセコウは、争う価値が低い。
まずコウを取れ: コウが発生した場合、先に取っておくと有利になることが多い（ただし、攻め合いのコウは除く）。

これらの格言は、コウを理解し、有効に活用するための指針となります。

コウをめぐる歴史的な事件

コウは、時に対局を大きく左右するだけでなく、囲碁史に残る数々の事件を引き起こしてきました。

織田信長の三コウ: 織田信長が観戦した対局で三コウが発生し、その夜に本能寺の変が起こったという逸話。
瀬越憲作・高橋重行戦の万年コウ: 1928年の対局で万年コウが発生し、ルール制定のきっかけとなった。
高川秀格・藤沢秀行戦の無コウ: 1960年の本因坊戦で、高川秀格が無コウを打ち、藤沢秀行が気づかずに応じて敗れた事件。
* 趙治勲のコウ確認事件: 1980年の名人戦で、趙治勲が記録係にコウを取る番か質問し、誤った回答を得たために起きた問題。

これらの事件は、コウが対局に与える影響の大きさを物語っています。

まとめ

コウは、囲碁のルールの中でも特に複雑で奥深い要素です。コウを理解し、その駆け引きを制することができれば、囲碁の面白さをより深く味わうことができるでしょう。コウは囲碁の醍醐味の一つであり、その理解は棋力向上に欠かせない要素です。

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