コウボウムギ

コウボウムギ（弘法麦）

コウボウムギ（学名：Carex kobomugi）は、カヤツリグサ科スゲ属に分類される多年生の海浜植物です。砂浜に特有の環境に適応し、群生を形成します。

特徴

コウボウムギは、地下に長く匍匐する茎を持ち、そこから地上に茎を伸ばします。地表に出た葉は、黄緑色で光沢があり、厚みがあって硬い質感です。葉の先端は細く巻いており、縁にはざらつきがあります。これらの特徴的な葉は、砂浜の強い日差しや乾燥から身を守る役割を果たしています。

花茎は春に現れ、高さ約20cmまで直立します。コウボウムギはスゲ属の中では珍しく雌雄異株であり、雄花と雌花が異なる株に咲きます。ただし、まれに同株や一つの穂に両方の花が見られることもあります。花茎の先端には、太く淡い黄緑色の穂が一つだけ付きますが、実際には多数の小穂が集まったものです。雄花の穂はこん棒状で、葯が全面から出てきます。雌花の穂も同様にこん棒状で、多数の果胞が密集しています。

果胞は長さ約1cmと比較的大きく、楕円形で偏平な形状をしています。先端には明確な長い嘴があり、その縁には鋸歯が見られます。この果胞の形状もコウボウムギを特徴づける重要な要素の一つです。

利用

コウボウムギの和名「弘法麦」は、かつて茎の基部の葉鞘の繊維が筆の材料として利用されたことに由来します。弘法大師（空海）が使った筆に例えられたことから、この名がついたとされています。別名としてフデクサとも呼ばれることがあります。また、過去には果実が食用とされた例も存在します。

生育環境

コウボウムギは、砂浜を代表する海浜植物の一つであり、比較的よく発達した砂浜に生育します。しかし、海岸線の改修工事などによって砂浜が消失すると、生育地が失われてしまいます。そのため、近年では生育地の減少が懸念されています。

分布域は、北海道西岸から琉球列島、朝鮮半島、台湾、中国東北部、ウスリーにまで広がっています。この広範囲にわたる分布は、コウボウムギの環境適応能力の高さを物語っています。

近似種と類似種

エゾノコウボウムギ（Carex macrocephala）は、コウボウムギとよく似た姿をしていますが、葉鞘の色が濃く、茎の断面がより三角でざらつきが強いといった違いがあります。また、果胞が熟すと開出し、嘴が尖るなどの特徴も異なります。エゾノコウボウムギは、コウボウムギとは分布域が異なり、北海道東側から東アジア北部を経て北アメリカ西海岸に分布しています。

また、同じく砂浜に生えるコウボウシバは、コウボウムギと似ていますが、よりシオクグに近い種であり、花序が異なります。葉だけでは区別が難しい場合もありますが、コウボウムギの方が葉が黄緑色で幅広く、縁にざらつきがあるのが特徴です。コウボウシバは、コウボウムギほど砂浜に限定されず、礫海岸や岩場などでも生育します。

分類

コウボウムギは、マスクサ節に分類されることもありますが、独立したコウボウムギ節（Sect. Macrocephalae）に分類されることもあります。これは、コウボウムギが持つ独特の形態的な特徴に基づいています。

主な種

コウボウムギ（Carex kobomugi Ohwi）
エゾノコウボウムギ（C. macrocephala Wild. ex Spreg.）

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物　草本I 単子葉植物』(1982)平凡社
北村四郎・村田源・小山鐵夫『原色日本植物図鑑 草本編(III)・単子葉類（改定49刷）』(1987)：保育社

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