コケイン

エドワード・エルガーの手による演奏会用序曲『コケイン』作品40は、1900年から1901年にかけて作曲された管弦楽作品です。ハ長調で書かれたこの曲は、ロイヤル・フィルハーモニック協会からの委嘱を受けて誕生しました。

初演は1901年6月20日、ロンドンのクィーンズ・ホールで、作曲者自身が指揮を執って行われました。この作品は、エルガーが親しくしていた多くの英国のオーケストラ奏者たちに捧げられています。

本作はしばしば『コケイン（首都ロンドンにて）』という副題でも知られます。「コケイン（Cockaigne）」という言葉は、もともと中世フランス語の「païs de cocaigne」（満ち足りた土地、理想郷）に由来しています。しかし、この語は1820年代頃から、冗談めかして当時のロンドン、特に下町を指す隠喩として使われるようになりました。エルガーが生きた時代には、「コケイン」という言葉は道徳家たちによって、過食や泥酔を指す比喩として否定的な文脈で用いられることもありましたが、同時にロンドンを指すユーモラスな愛称としても使われ続けました。

また、ロンドンの下町訛りを意味する「コックニー（Cockney）」も、「コケイン」と関連がある言葉とされています。一説によれば、「コックニーの土地」という意味で古い「コケイン」という言葉が復活したとも言われています。こうした背景を踏まえると、『コケイン（首都ロンドンにて）』という邦題の「首都」という言葉は、原語が持つユーモラスさや多層的なニュアンスに比べると、やや堅苦しい印象を与えるかもしれません。

この序曲は、エドワード朝時代のロンドンの活気あふれる様子を、音楽を通して鮮やかに描き出しています。エルガー自身がこの作品に具体的な「標題」を付けていたことが知られており、そこにはロンドンの街並みやそこで起こる情景が示唆されています。例えば、緑豊かな公園の片隅で語り合う恋人たちの姿や、賑やかな街角に突然響き渡るブラスバンド（吹奏楽）の陽気な響きなどが、音として表現されていると解釈されています。エルガーは、単なる風景描写に留まらず、当時のロンドンの人々の息遣いやエネルギーまでもを捉えようとしたかのようです。

『コケイン』序曲は、初演されるやいなや大きな成功を収めました。その生き生きとした音楽と、聴衆にとって身近な「ロンドン」というテーマが共感を呼んだのでしょう。その後もエルガーの作品の中でも特に人気のある一つとして広く親しまれてきました。しかし、今日では、初演当時の評価や過去の人気に比べると、演奏される機会は残念ながら減少傾向にあります。それでも、エドワード朝ロンドンの雰囲気を伝える貴重な音楽作品として、またエルガーの管弦楽作品の魅力を知る上で重要な一曲であることに変わりはありません。

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