コシアブラ

コシアブラ（漉油・金漆）

コシアブラ（学名: Chengiopanax sciadophylloides）は、ウコギ科コシアブラ属に属する落葉性の小高木、または高木です。別名としてゴンゼツとも呼ばれ、春に芽吹く若芽は、その強い香りとコクから、タラの芽と並ぶ人気の山菜として知られています。

名称の由来

コシアブラという和名の由来には、いくつかの説が存在します。

漉し油説: 新井白石は『東雅』の中で、樹脂の利用に由来するとする説を唱えました。
越油説: 坂部幸太郎は、越後国産の油であるとする説を提唱しました。
* 台州油説: 寺田晃は、中国浙江省の古名である「越（こし）」の油であるとする説を提唱しています。

その他、フイリコシアブラ、ゴンゼツ（金漆）、ゴンゼツノキ、アブラッコといった別名でも呼ばれています。

分布と生育環境

コシアブラの原産地は中国ですが、日本では北海道から九州まで広く分布しており、特に日本海側に多く見られます。山地の林の中に生育し、痩せた尾根に生えることが多いです。同じウコギ科のタラノキやウドと同様に、山や丘、林道脇など、開墾や伐採によって日当たりの良い明るい斜面を好みます。

形態と生態

コシアブラは、落葉広葉樹の小高木から高木であり、樹高は7〜15m、時には20mに達することもあります。枝と樹皮は灰白色から灰褐色で、ほぼ平滑であり、地衣類が付着していることがよくあります。幹の太さは50〜60cmになり、直立して生えることが多いです。一年枝は太く、節間が長く、短枝がよく発達し、枝の髄には隔壁があります。ウコギの仲間ですが、幹や枝にトゲはありません。

葉は互生し、掌状複葉で5枚の小葉からなります。葉の質は薄く、長さ7〜30cmの葉柄を持ちます。小葉はそれぞれ大きさが異なり、倒卵形から倒卵状長楕円形をしています。頂小葉が最も大きく、長さ10〜20cm、幅4〜9cmになります。葉の先端は細く鋭く尖り、基部は鋭形で長さ1〜2cmの小葉柄に続きます。葉の縁には、先がトゲ状になった小さな鋸歯があります。芽吹きの頃の葉には毛が多く、葉柄は紫色を帯びており、付け根は赤みを帯びた袴に包まれています。秋には紅葉し、透き通ったような淡い黄色に染まり、独特の色合いを見せます。日陰に生えた個体では、葉が非常に白っぽく見えることがあります。

花期は夏（8〜9月頃）で、枝先に円錐花序を伸ばし、多数の黄緑色の小花を球状に集めて咲かせます。花は両性または単性であり、単性の場合、花序の上部に雌性の小花序、下部に雄性の小花序をつけます。花の直径は約4mmで、花弁は5枚、長さは約1.5mmです。雄蕊は5本あり、長さは約2mmです。花柱は短く、先端が浅く2つに裂けます。果実は直径約4mmの扁平な球形で、秋には黒色に熟します。

冬芽は緑褐色や暗紫色の芽鱗に覆われており、頂芽は円錐形で側芽よりも大きく、側芽は小さいです。冬芽のすぐ下にある葉痕は浅いV字形で、維管束痕が11〜16個あります。

利用

山菜として

春先（4〜5月頃）に枝の先端から伸びる新芽は、独特の香りがあり食用とされます。タラの芽と並び、人気の山菜として採取されます。採取時期は、暖地では4〜5月、寒冷地や高山では6〜7月頃までが適期とされ、葉がばらばらにならないように、若芽の付け根からもぎ取るように袴ごと採取します。食べるときには、若芽の根元についている袴の部分を取り除いて調理します。強いコクと香りがあり、生のまま天ぷらにしたり、茹でて水にさらして灰汁を抜いてから、おひたしや和え物、バター炒め、煮浸し、卵とじ、煮つけなどにして食べられます。また、塩漬けにして保存食とすることもあります。若芽は脂肪やタンパク質を多く含む栄養豊富な食材であり、抗酸化作用のあるクロロゲン酸が含まれています。様々な料理に使われますが、特に天ぷらやかき揚げが美味しいとされ、タラの芽よりも香りとコクが優れているという評価もあります。市場にも流通しています。

木材として

コシアブラの木材は、器具、箸、楊枝などに利用されます。米沢市に伝わる木工工芸品の笹野一刀彫（おたかぽっぽ）を作る際の材料としても用いられます。また、「刀の木」とも呼ばれ、コシアブラの枝は、皮をこすると綺麗に剥がれ、芯と皮とが分離します。これを刀と鞘に見立て、子供の玩具とされたことに由来します。上記で挙げられている加工品として用いられる代表的な例はけずり花です。季節により生花を調達できないために生み出された造花です。

樹脂として

コシアブラの樹枝は、金漆（ごんぜつ）と呼ばれる錆止めに使われていました。奈良時代から平安時代にかけての文献には、黄金色に輝く塗料として「金漆」が登場し、工芸用塗料として珍重されましたが、現在では製法が失われています。『倭名類聚抄』には、「金漆 開元式云 台州有金漆樹 金漆和名古之阿布良」とあり、その樹の名が「許師阿夫良能紀」であると記述されています。このため、金漆はコシアブラの幹を傷つけた時に得られる樹脂を加工したものと考えられてきましたが、実際にはコシアブラから樹脂液は出ないとされていました。しかし近年の研究により、実際に使用された樹脂の大部分は同じウコギ科のカクレミノから採取されたものであったものの、コシアブラからも樹脂液が採取できることが判明しました。コシアブラからの樹液採取は冬季に行われ、漆の採取時期である夏季とは逆の季節であることや、北日本の分布域では積雪期で山中に入り難いことが、長年の間解明を妨げていた要因と考えられています。

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