コスモス140号

ソビエト連邦が有人宇宙飛行を目指して開発を進めていたソユーズ宇宙船。
その実用化に向けた試験飛行の一環として、1967年に打ち上げられた無人宇宙船が「コスモス140号」（ロシア語名：Космос-140）です。
これはソユーズ宇宙船（7K-OK型）にとって3回目の無人試験飛行にあたり、特に直後に予定されていた初の有人飛行計画であるソユーズ1号の、最終的な技術確認を行う重要なミッションでした。

ソユーズ宇宙船の試験飛行は、必ずしも順調な滑り出しではありませんでした。
最初の無人試験であるコスモス133号では、軌道上で多数の技術的な不具合が明らかになりました。
続く2回目の機体は、打ち上げ時に使用するロケットの異常によって、軌道に到達することなく打ち上げは失敗に終わりました。
このような状況を踏まえ、有人飛行に移行する前に、さらなる技術的な検証を行うための3回目の無人試験が必要と判断され、コスモス140号が開発・投入されたのです。

コスモス140号は、1967年2月7日にカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から、ソユーズ11A511ロケットによって打ち上げられました。
打ち上げ自体は成功し、宇宙船は無事に地球周回軌道へと投入されました。
しかし、軌道に乗った直後から問題が発生します。
宇宙船の姿勢を正確に保つための制御装置が故障し、これに伴って電力も不足する事態となりました。
幸い、姿勢制御が完全に失われるほどの深刻な状況には至りませんでしたが、宇宙船の状態は計画から外れることとなりました。

当初の計画では、軌道上でさらに詳細な試験を行う予定でしたが、発生した不具合を受けて飛行計画は短縮されることになります。
打ち上げから2日後の2月9日、コスモス140号は地球への帰還を試みました。
逆噴射ロケットを点火して軌道を離脱し、大気圏への再突入を開始したのですが、姿勢制御装置の不調が影響し、帰還カプセルは計画された角度よりも急な角度で大気圏に突入する、いわゆる弾道突入という状態になりました。

この急な突入角度に加え、制御の異常が影響した結果、帰還カプセルの着地点は当初予定されていた場所から大きく外れてしまいました。
最終的にカプセルは、目標地点より約500キロメートルも手前に位置する、凍結していたアラル海に落下しました。
大気圏突入時の高熱を帯びていたカプセルは、着水した箇所の厚い氷を溶かしてしまい、そのまま水深10メートルもの海底へと沈んでしまったのです。

沈没したカプセルは後に引き揚げられ、詳細な調査が行われました。
その結果、地球への大気圏突入の際に、宇宙船を高熱から守る耐熱シールドの一部に問題が生じていたことが明らかになります。
具体的には、点検や整備のために耐熱シールドに設けられていた、直径約30センチメートルの円形の開口部（プラグ）が、突入時の極端な熱によって焼損していました。
これによってカプセル内部の気圧が低下するというトラブルを引き起こしていたのです。
この重大な問題を受けて、今後のソユーズ宇宙船の製造においては、この点検用プラグを廃止するという設計変更が施されることになりました。

コスモス140号の試験飛行は、姿勢制御系の不具合や帰還時の耐熱シールドの損傷など、複数の技術的な問題に見舞われたため、試験としては完全な成功とは評価しがたい結果となりました。
しかし、当時のソビエト連邦宇宙開発当局による公式な評価は、これらの問題を比較的楽観的に捉えるものでした。
耐熱シールドの問題は設計変更によって解決可能であるとされ、姿勢制御などのその他のトラブルについても、もし宇宙飛行士が搭乗していれば適切な操作によって対応できたであろうと判断されました。

この楽観的な評価に基づき、ソビエト連邦は次回のソユーズ宇宙船の打ち上げを、満を持して有人で行うことを決定しました。
これが、宇宙開発史において重要な位置を占めることになる「ソユーズ1号」です。
しかし、コスモス140号での懸念が完全に払拭されていなかったためか、ソユーズ1号は軌道投入直後から次々と深刻な故障に見舞われ、最終的には地球帰還時に主パラシュートが開かないという、宇宙開発史上でも稀に見る重大事故が発生しました。
この事故により、搭乗していたウラジーミル・コマロフ宇宙飛行士は帰還途中に命を落とすという、悲劇的な結末を迎えることになります。
コスモス140号で明らかになった問題点が、その後の有人飛行の安全確保に十分活かされていたのかどうか、この事故は後世に多くの議論を残すこととなりました。

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