コスモス96号

コスモス96号

コスモス96号（ロシア語: Космос-96、ラテン文字表記の例: Cosmos 96）は、1965年にソビエト連邦によって宇宙へと送り出された金星探査機です。ソ連が推進していたベネラ計画の初期段階を担う探査機の一つとして開発されましたが、その運命は金星への旅ではなく、地球周回軌道からの離脱失敗という形で幕を閉じました。

計画概要と失敗の経緯

この探査機は、ソ連が金星探査用に開発した3MVと呼ばれる型式の機体でした。同じ3MV型探査機としては、後に金星への到達を果たしたベネラ2号やベネラ3号などが知られています。コスモス96号の打上げは、1965年11月23日にバイコヌール宇宙基地から行われました。モルニヤロケットによって打ち上げられた探査機と上段ロケット（打上げロケットの第4段部分）は、当初の予定通り一時的な宇宙待機軌道へと運ばれました。

しかし、ここから探査機を金星へ向かう軌道に乗せるために、上段ロケットが再点火された際、問題が発生しました。地上の観測データからは、探査機とロケットの結合体が金星へ向かうことなく、そのまま地球を周回する軌道に残されたことが確認されたのです。さらに、この際に軌道上には少なくとも6つ以上の新たな破片が生じたことも明らかになりました。これは、ロケットエンジンの点火時に何らかの不具合が発生し、爆発を伴ったためと推測されています。結果として、コスモス96号は目的の金星への軌道に乗ることは叶いませんでした。

地球周回軌道に留まることになった探査機は、高度が低かったため地球大気のわずかな抵抗を受け続けました。これにより軌道は徐々に減衰し、打上げからわずか16日後の1965年12月9日、コスモス96号は大気圏に再突入し、その生涯を終えました。

「コスモス」命名の理由

ソ連の宇宙計画において、惑星探査機が無事に目的の惑星への軌道に乗った場合、その探査機は「ベネラ」や「マルス」といった名称が与えられていました。もしコスモス96号が金星への軌道に乗ることができていれば、本来は「ベネラ4号」と命名される予定でした。しかし、計画が失敗し地球軌道に留まったため、ソ連当局はこれを「コスモス衛星」シリーズの一つとして扱い、「コスモス96号」として公表することを選択したのです。これは、計画の失敗を公表しない方針に基づいた措置でした。

火球との関連性に関する憶測

コスモス96号が大気圏に再突入したのと同じ日、1965年12月9日には、カナダやアメリカ合衆国北部の上空で非常に明るい火球が多くの人々に目撃されました。この劇的な出来事と、同時期に発生した人工衛星の再突入という情報が結びつき、目撃された火球の正体が、大気圏に突入したコスモス96号ではないかという憶測が人々の間で広く_広まりました_。特に、メディアでもこの可能性が取り上げられ、注目を集めました。

しかし、その後の詳細な調査によって、この火球がコスモス96号である可能性は低いと結論づけられました。アメリカ空軍が追跡していたコスモス96号の軌道データからは、探査機が火球が出現した時刻よりも早く大気圏に突入していた可能性が高いことが示されました。さらに、火球の写真や目撃者からの証言を詳しく分析した結果、火球を引き起こした物体の突入角度が、人工衛星が軌道から外れて再突入する際の典型的な角度よりもはるかに急であることが判明しました。これは、地球の重力に引かれて軌道から外れる人工物よりも、宇宙空間から高速で突入してくる天然の隕石に特徴的な振る舞いでした。

これらの証拠に基づき、専門家たちは火球の正体は人工物であるコスモス96号ではなく、おそらく宇宙を起源とする天然の隕石であった可能性が高いと結論づけました。こうして、コスモス96号の最後の瞬間と、同日夜空を彩った火球との直接的な関連性は否定されました。

コスモス96号は、ベネラ計画における初期の失敗例の一つとして歴史に名を残していますが、その最期に発生した謎の火球との関連が取り沙汰されたことは、当時の宇宙開発を取り巻く関心の高さを象徴する興味深いエピソードと言えるでしょう。

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