コラルカエウム・クリュプトフィルム

コラルカエウム・クリュプトフィルム（Korarchaeum cryptofilum）

コラルカエウム・クリュプトフィルムは、2008年にその存在が報告された、分類学上まだ正式に記載されていない超好熱性の古細菌（アーキア）です。古細菌の主要な系統の一つであるコル古細菌門（Korarchaeota）に属すると考えられており、この門に分類される微生物の中で、まだ単独での純粋培養には成功していませんが、比較的詳細な研究が進められている種です。

発見と培養の課題

このユニークな微生物は、アメリカ合衆国イエローストーン国立公園内にあるオブシディアンプールという高温温泉から採取されたサンプルから分離されました。研究者たちは、採取された試料を、貧栄養状態、85℃という高い温度、pH6.5の弱酸性、そして酸素がない嫌気的環境下で約4年間培養することで増殖を確認しました。これは、コラルカエウム・クリュプトフィルムが極めて特殊な環境に適応している超好熱菌であることを示しています。培養にはトリプトンや酵母エキスといった栄養源を含む培地が有効であることが確認されています。しかし、現在までに得られている培養系は、他の種類の細菌が混在する「共培養」の状態であり、コラルカエウム・クリュプトフィルムだけを分離して増殖させる「純粋培養」は、様々な試みにも関わらず、いまだ成功していません。これは、この微生物が他の微生物との相互作用に依存して生育している可能性を示唆しており、研究上の大きな課題となっています。

特徴的な形態と命名

電子顕微鏡による詳細な観察から、コラルカエウム・クリュプトフィルムはその形態が非常に特徴的であることが明らかになっています。個々の細胞は著しく細長い糸状の形をしており、その直径はわずか0.16マイクロメートル（μm）から0.18μm程度しかありません。一方で、長さは通常15μm程度ですが、時には100μmにも達することがあります。このような極端に細長い形態は、微生物の中でも珍しい部類に入ります。

その学名である「Korarchaeum cryptofilum」は、この微生物の発見の経緯や形態的な特徴に由来しています。属名のKorarchaeumは、分類学上の門名であるコル古細菌（Korarchaeota）に由来し、「若い」と「古代」を組み合わせた意味合いを持ちます。種小名のcryptofilumは、ギリシャ語で「隠された」を意味する「kryptos」と、ラテン語で「糸」を意味する「filum」を組み合わせた造語です。これは、オブシディアンプールで「隠された」微生物として発見されたこと、そして電子顕微鏡下で観察される「糸」のような形態にちなんでいます。

ゲノムからの洞察

純粋培養が困難であるため、コラルカエウム・クリュプトフィルムのゲノムDNAを解析するためには、共培養系から他の微生物のDNAを取り除く必要がありました。研究者たちは、界面活性剤（SDS）処理や濾過といった物理的・化学的な方法を用いてゲノムDNAを精製し、全ゲノムの解読に成功しました。

解読されたゲノムのサイズは159万757塩基対であり、これは古細菌全体の中で見ても比較的小さな部類に属します。ゲノム情報からは、興味深い特徴が明らかになっています。遺伝子の構成や配列を詳細に解析した結果、コラルカエウム・クリュプトフィルムは、古細菌の主要な二つの門であるユーリ古細菌門（Euryarchaeota）とクレン古細菌門（Crenarchaeota）の両方の特徴を併せ持つ、中間的な性質を有していることが示唆されています。このゲノム情報は、古細菌の進化過程や、コル古細菌門の系統的位置づけを理解する上で重要な手がかりとなっています。

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