コル古細菌

コル古細菌 (Korarchaeota)

コル古細菌は、1996年に分子生物学的手法を用いた調査により、古細菌ドメイン内に存在する独自の系統として見出された微生物群です。この発見は、当時カール・ウーズが提唱していたクレン古細菌とユーリ古細菌という二つの主要な界（または門）からなるという古細菌の分類体系に新たな視点をもたらし、古細菌の多様性が当初考えられていたよりも遥かに大きいことを示唆するものでした。

発見の経緯と初期の分類位置

コル古細菌は、アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園にある高温の熱水環境、具体的には74℃から93℃を示す熱水底泥のサンプルから発見されました。研究者たちは、PCR法を用いてこの環境中に生息する微生物の16S rRNA遺伝子を増幅し、その塩基配列を解析しました。その結果、既存のクレン古細菌やユーリ古細菌の16S rRNA遺伝子配列とは明確に異なる系統樹上の位置を示す配列が検出され、これが新しい系統であるコル古細菌として認識されたのです。この初期の16S rRNA系統解析では、コル古細菌は古細菌全体の系統樹において比較的根元に近い、深い分岐を示す系統であると推定されました。この知見に基づき、発見者であるBarnsらは、古細菌ドメインは少なくとも三つの主要な系統、すなわちクレン古細菌、ユーリ古細菌、そしてコル古細菌から構成されるという考えを提唱しました。

その後の分類の変遷

発見後、より多くの遺伝情報、特に様々なタンパク質の配列を用いた統合的な系統解析が進められるにつれて、コル古細菌の系統的な位置づけに関する理解は深まりました。多くのタンパク質情報を統合した系統解析では、コル古細菌は初期に考えられたほど古細菌全体の根元に近い分岐ではなく、むしろクレン古細菌に比較的近縁な独立した系統として位置づけられることが多くなりました。さらに、2010年代以降には、メタゲノム解析などの進展により、これまで知られていなかった多数の新たな古細菌系統が発見されました。このような背景の中で、コル古細菌は現在、クレン古細菌やいくつかの他の新規系統とともに、TACK上門（Superphylum TACK）と呼ばれる大きな分類群の一部として捉えられています。このTACK上門は、真核生物の起源にも関連する可能性が指摘されている重要なグループです。

研究の現状と集積培養株

コル古細菌は様々な熱水環境に広く分布していると考えられていますが、環境中の存在量は必ずしも多くないため、その詳細な生態や生理機能に関する研究は容易ではありません。発見から長い年月が経過していますが、実験室での純粋培養は困難であり、2018年現在においても成功していません。そのため、研究の多くは、環境サンプルから直接遺伝情報を解析する手法や、他の微生物との混合状態での集積培養系を用いて行われています。現在、コル古細菌の研究で最も活用されているのが、イエローストーン国立公園の熱水環境から分離された集積培養株である"Candidatus Korarchaeum cryptofilum” OPF8です。この株の全ゲノム配列は2008年に報告されており、コル古細菌のゲノム構造や潜在的な代謝能力に関する貴重な情報源となっています。

"Ca. K. cryptofilum" OPF8の特徴

"Candidatus Korarchaeum cryptofilum” OPF8株は、形態学的には非常に細長い糸状の形状をしています。その太さはわずか0.16マイクロメートルから0.18マイクロメートル程度ですが、長さは15マイクロメートルにも達することが観察されています。この株のゲノムサイズは比較的小さく、約1.59メガベースペア（Mbp）であり、そこには推定されるタンパク質をコードする遺伝子（ORF）が1,617箇所見つかっています。ゲノム配列の解析から、この株はエネルギー源としてペプチドやアミノ酸などの有機物を利用し、酸素を必要としない嫌気的な従属栄養生物として生育すると予測されています。

生息環境と命名由来

コル古細菌が最初に検出されたのはアメリカのイエローストーン国立公園の熱水環境でしたが、その後、アイスランドやロシアのカムチャッカ半島など、世界各地の陸上温泉からもその遺伝情報が検出されており、熱水環境への高い適応性を持つことが示されています。コル古細菌の学名であるKorarchaeotaは、古代ギリシャ語で「若い男」や「若い女」を意味する言葉である"koros"あるいは"kore"に由来するとされています。

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