コリン・デイヴィス

サー・コリン・デヴィス：英国が生んだ偉大な指揮者

1927年、イングランドのサリー州に生まれたコリン・デヴィスは、経済的に恵まれない環境の中で音楽の道を歩み始めました。ピアノを購入する余裕がなかった彼は、まずクラリネットを手に取り、王立音楽大学でクラリネットを学びました。しかし、ピアノ演奏能力の不足を理由に指揮法の履修を許されなかったのです。それでも彼は才能を諦めず、同級生らとオーケストラを結成し、指揮者としての経験を積んでいきました。

その後、ロイヤル・フェスティバル・ホールでの勤務を経て、BBCスコティッシュ交響楽団などを指揮するようになりました。1959年、世界的巨匠オットー・クレンペラーの代理としてモーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』を指揮したことが、彼のキャリアを大きく飛躍させる転機となります。この成功をきっかけに、彼はたちまち注目を集め、翌年にはグラインドボーン音楽祭でモーツァルトの『魔笛』を指揮し、さらに名声を高めました。

1960年代には、サドラーズ・ウェルズ・オペラやロンドン交響楽団、BBC交響楽団といった英国を代表する楽団を指揮し、幅広いレパートリーをこなすようになります。そして1971年、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の首席指揮者に就任。名高い指揮者ゲオルク・ショルティの後任という重要なポストを担い、1986年までその地位を保持しました。

デヴィスは、現代音楽の作曲家マイケル・ティペット作品への深い理解と熱意でも知られています。ティペットのオペラ『ノット・ガーデン』（1970年）、《The Ice Break》（1977年）、『時の仮面』（1984年）の初演を指揮し、現代音楽界に大きな貢献を果たしました。また、ボストン交響楽団の首席客演指揮者としてシベリウスの交響曲全集を録音するなど、幅広いレパートリーと高い演奏技術で聴衆を魅了しました。

1977年には、イギリス人指揮者として初めてバイロイト音楽祭に出演し、『タンホイザー』を指揮。国際的な舞台でもその存在感を示しました。1980年にはナイトの称号を授与され、その後もバイエルン放送交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団名誉指揮者などを歴任しました。そして1995年には、再び母国イギリスのロンドン交響楽団首席指揮者に就任し、華々しいキャリアの終盤を飾りました。

彼のレパートリーは多岐に渡り、モーツァルトやブリテンのオペラから、ベルリオーズの管弦楽曲、マーラーやシベリウスの交響曲まで、高い芸術性を備えた演奏で世界中から称賛されました。2013年4月14日、85歳で逝去しました。彼の死は、音楽界に大きな悲しみをもたらしました。指揮者としての卓越した才能、現代音楽への貢献、そして幅広いレパートリーと深遠な音楽解釈は、後世に大きな影響を与え続けるでしょう。彼の息子は、ジョゼフ・ウォルフという名の指揮者です。

主な業績と活動

モーツァルト、ブリテン等のオペラ指揮
ベルリオーズ、マーラー、シベリウス等の交響曲演奏
コヴェント・ガーデン王立歌劇場首席指揮者
バイエルン放送交響楽団首席指揮者
ロンドン交響楽団首席指揮者
マイケル・ティペット作品初演指揮
バイロイト音楽祭出演
シベリウス交響曲全集録音

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