コレラ菌

コレラ菌の詳細解説



コレラ菌（Vibrio cholerae）は、ビブリオ属に分類されるグラム陰性の細菌です。特徴的なコンマ型をしており、好アルカリ性で、比較的塩分を好む性質を持ちます。この菌は、1854年にイタリアの医師フィリッポ・パチーニによって発見され、その後1884年にロベルト・コッホによってコレラの病原体として再発見されました。

コレラ菌の種類と病原性



コレラ菌には200種類以上の血清型が存在しますが、そのすべてがコレラを引き起こすわけではありません。コレラの原因となるのは、「コレラ毒素を産生するO1型またはO139型のコレラ菌」のみです。O1型はさらに古典型とエルトール型に分類されます。これらのコレラ菌は、主に河川や海水中に生息し、汚染された水や魚介類を介して経口感染します。

歴史的背景



1817年、インドのガンジス[[川]]下流で大規模なコレラの流行が発生し、世界的なパンデミックへと拡大しました。その後も、1829年を皮切りに何度かパンデミックが発生し、「ペストの再来」として恐れられました。当時はまだ原因が不明でしたが、1852年の第3次パンデミックの際に、イギリスの医師ジョン・スノウが疫学調査によって飲料水との関連性を示唆しました。同じ頃、フィリッポ・パチーニが患者の糞便からコレラ菌を発見しましたが、当時は細菌病原体説が確立されていなかったため、その発見は30年もの間、日の目を見ることはありませんでした。

1884年、ロベルト・コッホがコレラ菌を病原体として特定し、その存在が広く認められるようになりました。しかし、マックス・フォン・ペッテンコーファーのような細菌病原体説に反対する研究者によって、自飲実験という形でその有効性が検証されました。結果、コレラ菌がコレラの病原菌であるという認識が広まりました。

その後、コレラ菌の研究が進むにつれて、実際にコレラを引き起こすのはコレラ毒素を産生する一部の菌のみであることが判明しました。また、1961年にはエルトール型と呼ばれる新しい型のコレラ菌が出現し、世界的な流行を引き起こしました。さらに、1992年にはO139型コレラ菌が発見され、コレラの原因菌として認識されました。

細菌学的特徴



コレラ菌は、0.3×2µm程度の大きさで、コンマ状の形態をしています。通性嫌気性で、ブドウ糖を発酵しますが、菌体の一端に1本の鞭毛を持つ点が腸内細菌科の細菌とは異なります。この鞭毛によって水中を活発に運動します。増殖可能なpHは6-10で、特にアルカリ性の環境を好みます。また、0.5%程度の塩化ナトリウム濃度が最も増殖に適しています。コレラ菌は比較的抵抗力が弱く、酸や乾燥、日光、高温に弱いという特徴があります。

コレラ菌は、細胞壁の外膜にあるリポ多糖の抗原性によって205種類に分類されています。また、鞭毛にも抗原性がありますが、型は一つしかありません。血清型によってO1型、O2型と区分されます。O1型は、小川型、稲葉型、彦島型という亜型に分類されます。さらに、生物学的特徴によって、古典型とエルトール型に分類されます。エルトール型は古典型に比べて毒性が低いものの、環境中での生存能力が高いという特徴があります。非O1コレラ菌は、かつてNAGビブリオと呼ばれていましたが、現在ではO1型と区別するためにあまり使われなくなりました。

コレラ菌は、自然環境ではヒトの腸内でのみ増殖し、水中などでは数日から数週間程度しか生存できません。しかし、ストレス下ではバイオフィルムを形成して生存期間を延ばすこともあります。また、VNCと呼ばれる休眠状態に移行することで、環境が悪化しても生き残り、再び活動を開始することがあります。コレラ菌は、大小2本の染色体を持つという特徴的な遺伝子構造を持っています。

コレラ毒素とその作用機序



コレラ菌の中でも、コレラの原因となる菌はすべてコレラ毒素を産生します。コレラ毒素は、腸管上皮細胞に作用して、水と電解質の分泌を促進し、水様性の下痢や脱水症状を引き起こします。コレラ毒素は、1つのAサブユニットと5つのBサブユニットから構成されるA1B5型毒素タンパク質です。

Bサブユニットは、腸管上皮細胞の細胞膜表面にあるGM1ガングリオシドに結合し、毒素は細胞内に取り込まれます。その後、Aサブユニットが切断されて細胞質に遊離し、細胞内のGタンパク質に結合して、アデニル[[酸シクラーゼ]]を活性化します。その結果、細胞内のcAMP濃度が上昇し、イオンチャネルが開いて水と電解質が細胞外に漏出し、下痢が引き起こされます。

病原性



コレラ菌の病原性は、産生する毒素の種類や菌の種類によって異なります。一般的に、古典型のO1コレラ菌は毒性が強く、エルトール型は毒性が低いとされます。しかし、エルトール型は環境中での生存能力が高いため、流行が長期化しやすいという特徴があります。また、非O1コレラ菌の一部も毒素を産生することがありますが、O1型やO139型に比べて病原性は低いとされています。

発光性



コレラ菌は、一部の発光細菌としても知られています。淡水産のヌマエビなどが発光するホタルエビの現象は、このコレラ菌が原因であるとされています。

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