コンクリート作業

ジャン＝リュック・ゴダール監督による1954年製作の短編映画『コンクリート作業』（別題：『コンクリート作戦』『コンクリート工事』）は、彼のキャリアにおいて特筆すべき作品です。なぜなら、この作品がゴダールの監督としての最初の作品であり、ヌーヴェルヴァーグの巨匠としての彼の出発点となる重要な一歩を記しているからです。

当時まだ23歳だったゴダールは、スイス・ヴァレー州に建設中だったグランド・ディクサンス・ダムの工事現場に身を置きました。この巨大なダム建設は、1953年に着工し、1961年に完成する壮大なプロジェクトでした。ゴダールはこのダム建設という現代社会の象徴的な光景に強い興味を抱き、その様子を記録することにしました。

単なる記録映画にとどまらない『コンクリート作業』は、ゴダールの鋭い視点と独特の映像表現が特徴です。彼は、戦時中にスイスに亡命していたジャック・フェデー監督作品の撮影監督を務めたアドリエン・ポルシェを撮影に起用しました。ポルシェの経験と技術は、ゴダールの意図を的確に映像化する上で大きく貢献していると考えられます。ゴダール自身の経験や、ポルシェの視点を通して、このダム建設という壮大なプロジェクトが持つ、人間の業績と自然との対峙、そして現代社会の進歩と矛盾といった複雑な要素が凝縮されています。

興味深い点は、ゴダールの『コンクリート作業』が、単なる趣味や実験作品として製作されたものではないという点です。1956年には、ヴィンセント・ミネリ監督の長篇映画『お茶と同情』と併映され、劇場公開されました。このことは、当時既にゴダールが映画監督として一定の評価を得ていた、あるいは、彼の作品に期待する者たちがいたことを示唆しています。

ヌーヴェルヴァーグの主要な監督たちの中でも、ゴダール、クリス・マルケル、ジャン・ルーシュ、フランソワ・レシャンバック、そしてピエール・シェンデルフェールは、ドキュメンタリー映画からキャリアをスタートさせたという共通点があります。このことは、ヌーヴェルヴァーグが現実社会への関心を強く持ち、既存の映画作法にとらわれず、自由な表現方法を模索していたという時代の空気感を反映していると言えるでしょう。ゴダールの『コンクリート作業』は、まさにこの時代の空気感と、ゴダール自身の才能が結びついた、貴重な映画作品なのです。

『コンクリート作業』は、単なるダム建設の記録映画としてだけでなく、ゴダールの初期作品を理解する上で欠かせない作品であり、彼が後のヌーヴェルヴァーグ作品へと繋がる独自の映画的思考を既に持ち合わせていたことを示す重要な証拠となっています。現在では、この作品は、ゴダール初期作品を研究する上で貴重な資料として、高い評価を受けています。また、この作品は、ダム建設という大規模なプロジェクトを通じて、人間の創造性と自然との関係、そして現代社会の進歩と課題を問いかける、深遠なテーマを含んでいると解釈することも可能です。

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