コンスタンチン・パウストフスキー

コンスタンチン・ゲオルギエヴィチ・パウストフスキーは、1892年5月31日に帝政ロシアのモスクワで生まれ、1968年7月14日に亡くなったソビエト連邦の作家です。彼の作品は、その清冽で高邁な文体から、現代ロシア語における第一級の名文と評価されています。

パウストフスキーは、作家活動に入る前は、工場労働者や新聞記者（従軍記者）など、様々な職業を経験しました。モスクワ大学を中退後、これらの経験が彼の作品に深みを与えています。第二次世界大戦後には、ゴーリキー記念文学大学で教員を務め、後進の育成にも尽力しました。

生い立ちと家族

パウストフスキーの父、ゲオルギー・マクシーモヴィッチ・パウストフスキーは、鉄道の統計技師でした。父方の祖父はザポロージャ・コサックの出身で、祖母はトルコ人、母方の祖母はポーランド貴族の家系です。このように、パウストフスキーはウクライナ、ポーランド、トルコの三つの民族的ルーツを持っていました。兄弟には、長兄ボリス、次兄ヴァディム、姉ガリーナがいました。

父方の祖父マクシム・グリゴリエヴィッチは、皇帝ニコライ1世に仕えたコサック軍人で、露土戦争でトルコ人の娘を連れ帰り、妻としました。母方の祖母ヴィケンチヤ・イワーノヴナはポーランド貴族の出身で、熱心なカトリック信者でした。しかし、パウストフスキーの洗礼台帳には両親ともに正教徒と記載されています。

学生時代と職歴

パウストフスキーは、家族と共にモスクワ、ヴィリニュス、プスコフと移り住み、1898年にはキエフに移りました。キエフでは大学2年までを過ごし、1904年に名門ギムナジウムに入学、ミハイル・ブルガーコフと出会います。父の失踪により家計が困窮すると、母方のおじ夫婦に預けられますが、後にキエフに復学し、家庭教師をしながら卒業しました。1912年の卒業直前に父が他界します。

ギムナジウム卒業後、キエフ大学で物理数学部と歴史言語学部で学びましたが、第一次世界大戦の勃発を受けてモスクワ大学法学部に編入しました。しかし、戦時中の労働力不足を補うために大学を中退し、モスクワの路面電車の車掌や病院列車の衛生兵として働きました。落馬事故で復員後、兄弟の戦死を知り、南へ向かいエカテリノスラーフやユゾフカの工場、ロストフ州のボイラー工場などで働きました。その後、アゾフ海での漁師生活も経験しました。

作家としてのキャリア

1916年、モスクワに戻ったパウストフスキーは新聞記者として働き始め、二月革命や十月革命を経験します。ロシア内戦中にはウクライナに移り、徴兵された後、オデッサで新聞社に勤務しました。イリヤ・イリフ、エフゲニー・ペトロフ、イサーク・バーベルといった作家たちとの交流が、彼を文学の道へと進ませます。その後、クリミア半島やカフカス地方を転々とし、ペルシア北部まで足を運びました。

1923年にモスクワに戻り、新聞社やロスタ社で編集者として働いた後、1930年頃からはソ連各地を取材して記事や随筆を執筆しました。初期の作品には南方の海を舞台とした異国情緒あふれるものが多く、次第にロシア中部の自然美を描写するようになります。『北の物語』や『メシチョーラ地方』などが代表作です。また、『イサーク・レヴィターン』や『オレスト・キプレンスキー』など、芸術家の生涯を描いた作品も高く評価されています。

独ソ戦開戦直後には戦場記者として活動しましたが、モスクワ芸術座からの依頼で戯曲を執筆するために疎開しました。戦後、『森林物語』を発表し、自伝的大河小説『生涯の物語』を1945年から1963年にかけて執筆しました。晩年は共産党の批判から同時代の作家を守る活動にも尽力しましたが、彼の編集した作家選集『タルーサのページ』は発禁処分を受けています。1960年代にはアレクサンドル・ソルジェニーツィンを支援し、文学作品の検閲廃止を求めました。

作品の特徴

パウストフスキーの作品は、詩情豊かな自然描写と人間への深い洞察が特徴です。彼の文章は、読む人の心に静かに響き、感動を与えます。特に、自伝的作品である『生涯の物語』は、彼の人生観や文学観が色濃く反映されており、多くの読者に愛されています。

主な作品

短編集・連作集:
『海のスケッチ』 (1925)
『ミネトザ』(1927)
『行き交う船』(1928)
『黒海』(1936)
『夏の日々』(1945)
『クリミア物語』(1948)
『黄金の薔薇』(1955)
中編～長編:
『光る雲』(1929)
『カラ・ブガス』(1932)
『コルヒーダ』(1934)
『ロマンチストたち』(1935)
『猟犬座』(1937)
『オレスト・キプレンスキー』(1937)
『イサーク・レヴィターン』(1937)
『北の物語』(1938)
『タラス・シェフチェンコ』(1939)
『メシチョーラ地方』(1939)
『祖国の面影』(1944)
『森林物語』(1948)
『川の氾濫』(1952)
自伝的大河小説:
『生涯の物語』
『遙かなる歳月』(1946)
『不安な青春』(1954)
『先の見えぬ世紀の始まり』(1956)
『大いなる期待の時』(1958)
『南へ』(1959-1960)
『さすらい人の書』(1963)
短編:
『ミハイロフスコエ村の木立』(1936)
『黄色い光』(1936)
『最後の魔物』(1936)
『困った一日』(1937)
『古い小舟』(1939)
『夏との別れ』(1941)
『臆病な心』(1943)
『雪』(1943)
『白き虹』(1945)
『夏の日々』(1945)
『電報』(1946)
『第273森林警備隊』(1948)
『モミの実の籠』(1954)
『秋と共に』(1963)
児童文学:
『アナグマの鼻』(1935)
『泥棒猫』(1936)
『兎の足』(1937)
『古い家の間借り人たち』(1940)
『牧童』(1944)
『焼き立てのパン』(1945)
『カブトムシの冒険』(1945)
『鉄の指輪』(1946)
『深い森のこわい熊』(1948)
『くしゃくしゃ羽根の雀』(1948)
『雨蛙』(1951)
『優しい花』(1953)
戯曲:
『レールモントフ中尉』(1940)
『われらが同時代人』(1949)
『心臓が止まらぬうちに』(1942)
『指輪』(1947)
映画シナリオ:
『カラ・ブガス』(1935)
『レールモントフ』(1943)

晩年と死

パウストフスキーは1967年にタルーサの名誉市民となり、長年の喘息を患い、モスクワの病院で亡くなりました。彼の遺体はタルーサに埋葬されました。

家族について

パウストフスキーの家族構成は複雑で、三度の結婚を経験しています。最初の妻はエカテリーナ・ステパーノヴナで、息子ヴァジームがいます。二番目の妻はヴァレーリヤ・ヴラジーミロヴナで、『生涯の物語』に登場するマリヤのモデルとされています。三番目の妻はタチヤーナ・アレクセーエヴナで、息子アレクセイがいます。彼は多くの親族に囲まれ、複雑な人間関係の中で人生を送りました。

パウストフスキーは、その文学的才能だけでなく、その人間性においても多くの人に影響を与えた作家です。彼の作品は、今もなお多くの人々に読み継がれ、愛されています。

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