ミハイル・ブルガーコフ

ミハイル・アファナーシエヴィチ・ブルガーコフ（1891年-1940年）は、20世紀を代表するロシアの劇作家、小説家です。最も有名な作品は、現代モスクワとキリスト時代のエルサレムを舞台に、巨匠、マルガリータ、悪魔といった魅力的な登場人物が織りなす壮大な物語『巨匠とマルガリータ』です。

ブルガーコフは、ロシア帝国時代のウクライナ、キエフでロシア人の両親のもとに生まれました。キエフ大学で医学を学び、その後は、激動のロシア内戦に白軍の軍医として従軍しました。キエフはウクライナ人民共和国、赤軍、ドイツ帝国など様々な勢力の支配下に入り、ブルガーコフは数々の軍隊勤務を経験しました。中でも、南ロシア軍の将軍アントーン・デニーキン率いる部隊に従軍し、チェチェンやヴラジカフカースへ遠征した経験は、彼の作品にも反映されていると言われています。

内戦後、ブルガーコフは作家としての道を歩み始めます。雑誌「ナカヌーニェ」に掲載された「悪魔物語」で高い評価を受け、文壇にデビュー。その後、『運命の卵』や『犬の心臓』といった、科学技術に対する皮肉や警鐘を込めたSF的な作品を発表しました。しかし、これらの作品は共産主義政権のイデオロギーと対立する内容として、当局から厳しい批判を受けます。

ブルガーコフの代表作の一つ『白衛軍』は、内戦期のキエフを舞台にした自伝的な長編小説です。この作品は、白軍への郷愁や、故郷キエフへの深い愛情が感じられると同時に、内戦の悲惨さをリアルに描写したことから、当局から厳しい弾圧を受けました。『白衛軍』は、彼の生まれ故郷キエフへの強い愛着を表す作品として高く評価されており、ブルガーコフ自身の内面を深く反映したものとなっています。

さらに、彼の作品には、ゴーゴリ『死せる魂』をパロディーにした『チチコフの遍歴』、戯曲『トゥルビン家の日々』（『白衛軍』の戯曲化）、SF中編小説『赤紫島』、中編小説『ゾーイカの部屋』、戯曲『モリエール』など、多様なジャンルの作品があります。これら多くの作品は、ソ連時代の検閲により出版が制限され、彼の死後も長らく世に出ることのないまま封印されていました。

ブルガーコフの生涯における最高傑作であり、死後、多くの読者に感動を与え続けているのが『巨匠とマルガリータ』です。この作品は、キリスト時代のエルサレムと現代のモスクワを舞台に、巨匠とその愛人マルガリータ、そして悪魔ウォランドの活躍を描いています。この複雑で奥深い物語は、宗教、哲学、政治、そして人間の存在そのものについて深く問いかける、ブルガーコフの集大成と言える作品であり、現在でも世界中で読まれ、様々な解釈がなされています。

ブルガーコフは、1940年3月10日、腎硬化症により48歳という若さで亡くなりました。彼の父もまた、同じ病気で亡くなっています。しかし、彼の作品は時代を超えて多くの人々に読まれ、演じられ、愛され続けています。モスクワとキエフにはブルガーコフ博物館があり、彼の生きた時代と作品に触れることができます。特にキエフの博物館は、2022年から2023年にかけてのロシアによるウクライナ侵攻の際に、ブルガーコフ像が赤い塗料で汚されるという事件に見舞われ、その歴史的意義を改めて認識させられる出来事となりました。彼の作品は、現代社会においても、普遍的なテーマを扱っているため、常に人々の心に響き続けることでしょう。

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