コンツェルトシュテュック (メンデルスゾーン)

フェリックス・メンデルスゾーンの手による、室内楽曲とも協奏曲とも分類される作品に、「クラリネットとバセットホルンのためのコンツェルトシュテュック（Konzertstück für Klarinette und Bassetthorn）」があります。このタイトルは「協奏的小品」「演奏会用小品」と表記されることもあります。このジャンルに属する作品は全部で2曲あり、それぞれ第1番ヘ短調 作品113、そして第2番ニ短調 作品114として知られています。

作品の背景と成立

この2つの作品は、著名なクラリネット奏者であったハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマンと、その息子で同じく奏者だったカール・ベールマンという父子のために書かれました。作曲されたのは1832年の終わりから1833年の初頭にかけて、メンデルスゾーンが後に「イタリア」と呼ばれる交響曲など、彼の代表的な作品群と同時期にあたります。しかし、これらの「コンツェルトシュテュック」はメンデルスゾーンの存命中には出版されず、彼の死後になってから作品番号が付与されたため、作曲時期に比して作品番号が大きくなっています。

当初、これらの作品はクラリネット、バセットホルン、そしてピアノというトリオ編成で作曲されました。しかし、両作品には管弦楽による伴奏版も存在しており、現在では協奏曲のような形で演奏される機会も多くあります。また、バセットホルンはクラリネットほど一般的ではないため、独奏パートを2本のクラリネットに編曲するなど、編成を変更して演奏されることも少なくありません。ヨスト・ミヒャエルスやトリオ・ディ・クラローネといった演奏家による編曲も出版され、演奏の機会を広げています。

第1番 ヘ短調 作品113

第1番は、1832年12月30日、ハインリヒ・ヨーゼフ・ベールマンとカール・ベールマン父子から依頼されて作曲されました。当時、父子は演奏旅行でサンクトペテルブルクへ向かう途中、ベルリンに滞在しており、そこで若いメンデルスゾーンに出会ったのです。この作品の誕生には、興味深いエピソードが伝えられています。作曲の依頼を受けた際、料理の腕前で知られたベールマン父子がメンデルスゾーンをもてなすべく、隣室で夕食の支度をしていたといいます。その間、若い作曲家はすぐ隣の部屋で、出来立ての料理を心待ちにしながら筆を進めていたというのです。初演は翌1833年の1月5日にベルリンで行われ、わずかその翌日には管弦楽伴奏版が編まれました。

管弦楽伴奏版の編成は、独奏クラリネット、独奏バセットホルンに加え、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、そして弦楽五部という標準的な2管編成です。

楽曲は単一楽章として書かれていますが、古典的な協奏曲の3楽章構成が凝縮された、実質3つの部分に分けることができます。「コンツェルトシュテュック」という語が「小協奏曲」とも解釈される所以です。演奏時間は約8分半です。

第1部 Allegro con fuoco ヘ短調、4/4拍子：両独奏楽器による短いカデンツァで力強く始まります。この部分では、メンデルスゾーンがイギリス滞在中に耳にしたという、フランツ・コツワラの当時の有名曲「プラハの戦い」の旋律が引用されています。メンデルスゾーン自身、この引用から着想を得て、当初この作品を「プラハの戦い」と呼ぼうと考えていた時期もあったと伝えられています。
第2部 Andante 変イ長調、9/8拍子：スタッカートの軽快な伴奏の上で、クラリネットとバセットホルンが美しい二重奏による旋律を歌います。
第3部 Presto ヘ長調、6/8拍子：非常に技巧的で快活なロンドです。

第2番 ニ短調 作品114

第2番は、第1番の出来栄えに満足したベールマン父子から、わずか2週間後の1833年1月19日に依頼されて作曲されました。これも彼ら父子のために書かれた作品です。

作曲後すぐに、当時ケーニヒスベルクに滞在していたベールマン父子のもとへ送られました。メンデルスゾーンが作品に添えて送った手紙には、各部分の楽想についてユーモアあふれる解説が記されており、作曲家と演奏家たちの親密な交流がうかがえます。管弦楽伴奏版がいつ成立したかは明らかではありませんが、恐らくカール・ベールマン自身が管弦楽配置を行ったと考えられています。

管弦楽伴奏版の編成は、独奏クラリネット、独奏バセットホルン、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、そして弦楽五部となっており、第1番とは異なりトランペットとティンパニは使用されていません。

こちらも単一楽章ながら、第1番と同様に3つの部分に分けることができます。演奏時間は約9分です。

第1部 Presto ニ短調、2/2拍子：管弦楽伴奏版では4小節の短い前奏が加わります。独奏楽器がユニゾンで開始し、二人の短いカデンツァを挟んでテンポが速まり、次の部分へと向かいます。メンデルスゾーンは、この部分について「あなたの主題を基にしています。あなたがシュテルン氏の全財産をカード遊びで巻き上げ、彼を烈火の如く怒らせたところを想像してみました」と、遊び心に満ちた説明をしています。
第2部 Andante ヘ長調、6/8拍子：バセットホルンのアルペジオによる伴奏の上で、クラリネットが美しく叙情的な旋律を歌います。作曲家による解説では、「これは先日のディナーの思い出です。クラリネットは料理を待ちわびる私、バセットホルンはのたうち回る胃袋です」と、再びユーモラスな表現で楽想を説明しています。
第3部 Allegro grazioso ヘ長調、2/4拍子：快活なロンドです。この楽章では三度音程でのユニゾンが頻繁に用いられており、第1番の対応する部分に比べて落ち着いた色調を持っています。メンデルスゾーンはこれを「演奏旅行で訪れるロシアの厳しい気温に合わせて、わざと"冷たく"書きました」と述べており、聴き手に創造的なイメージを掻き立てる解説を加えています。

まとめ

メンデルスゾーンの「クラリネットとバセットホルンのためのコンツェルトシュテュック」第1番、第2番は、ベールマン父子との親密な関係の中で、短い期間に立て続けに生み出されました。これらの作品は、単なる演奏会用の小品という枠を超え、技巧的な要求とメンデルスゾーンらしい流麗で魅力的な旋律、そして作曲家自身のユーモアが随所に光る、生き生きとした音楽となっています。ピアノ伴奏版、管弦楽伴奏版、さらには現代的な編曲によって、今日でもクラリネットやバセットホルンのレパートリーとして広く愛され、演奏され続けています。

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