コヴノ・ゲットー

コヴノ・ゲットーの歴史

コヴノ・ゲットーは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツがリトアニアのコヴノ（現在のカウナス）に設置したユダヤ人隔離居住区です。このゲットーの設立は、ナチスによるユダヤ人迫害政策の重要な一部でした。

1939年8月、ナチス・ドイツとソ連は独ソ不可侵条約を締結し、その秘密協定でポーランドの分割占領やバルト諸国のソ連への割譲を取り決めました。この条約に基づき、1940年6月にソ連はリトアニアに侵攻し、コヴノもソ連の支配下に置かれました。しかし、1941年6月に独ソ戦が始まると、ソ連軍はリトアニアから撤退し、ドイツ軍がコヴノを占領しました。

当時、コヴノには約4万人のユダヤ人が暮らしており、これは総人口の25％を占めていました。ソ連による占領はリトアニア人の反ソ・反ユダヤ感情を助長し、ドイツ軍の占領下では、リトアニア人によるユダヤ人への報復的な暴力行為が横行しました。ドイツ当局もこれに加担し、占領開始からわずか1ヶ月で約1万人のユダヤ人が殺害されました。

並行して、ドイツ占領当局はゲットーの創設に着手しました。アインザッツグルッペン（特別行動部隊）はコヴノのユダヤ人指導者を招集し、ユダヤ人住民全員をヴィリアンポリ地区に移住させるよう命令しました。ユダヤ人側は移住の中止を求めましたが、アインザッツグルッペンは「これが現地民によるポグロムを防止する唯一の方法だ」と主張しました。

1941年8月、ゲットーは封鎖され、約3万人のユダヤ人が隔離されました。その後数ヶ月のうちに3000人が殺害され、1941年10月28日には、さらに約9000人（ゲットー住民の約3分の1）が郊外の第9砲塁に連行され、虐殺されました。この結果、コヴノ・ゲットーの住民は約1万8000人にまで減少しました。

ゲットーの運営と抵抗

コヴノ・ゲットーのユダヤ人評議会は、他の東ヨーロッパのゲットーとは異なり、住民の選挙によって選ばれていました。そのため、住民からの支持が比較的厚く、ゲットー内の地下組織とも協力関係を築いていました。ゲットー警察さえもナチスに対するゲリラ活動を支援していたという記録もあります。しかし、1943年秋に親衛隊がゲットーの直接管理に乗り出すと、ユダヤ人評議会の権限は大幅に縮小され、ゲットーは強制収容所に転換されました。

親衛隊はコヴノ周辺に付属収容所を次々と設置し、ゲットー住民を分散させました。1943年10月には、基幹収容所から約2700人が移送され、健康な者はエストニアの労働収容所へ、労働できない高齢者や子供はアウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所へ送られました。

1944年7月、ソ連軍の接近に伴い、親衛隊はコヴノ強制収容所の撤収を決定しました。残っていた囚人たちはダッハウ強制収容所やシュトゥットホーフ強制収容所へ移送され、ソ連軍がコヴノに到着する前に、ゲットーと収容所は徹底的に破壊されました。この際、約2000人のユダヤ人が殺害されました。

コヴノ・ゲットーは、ホロコーストの悲劇を象徴する場所の一つであり、そこで起きた出来事は、人類の歴史における暗部を今に伝えています。

注釈

この記述は、以下の参考文献を参考に作成されています。

マイケル ベーレンバウム著、石川順子訳、高橋宏訳、『ホロコースト全史』、1996年、創元社、ISBN 978-4422300320
ラウル・ヒルバーグ著、望田幸男・原田一美・井上茂子訳、『ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅 上巻』、1997年、柏書房、ISBN 978-4760115167

関連項目

* リトアニアにおけるホロコースト

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