ゴキヅル

ゴキヅル（Actinostemma tenerum Griff.）

ゴキヅルは、ウリ科に属する一年生の蔓性植物で、湿地や水辺に生育します。その名の由来は、果実が成熟すると上下に二つに割れる形状が、蓋付きの容器を連想させることからきています。

特徴

全体に繊細で、短い毛がまばらに生えています。茎は2m以上に伸び、巻きひげを使って他の植物に絡みつきながら成長します。葉は互生し、三角状披針形で、長さは5～10cm、幅は2.5～7cm程度です。葉の先端は尖り、基部は鉾型または心形をしており、縁には低い鋸歯があります。葉は浅く3～5つに裂けることもあります。

夏から秋にかけて、淡緑色の小さな花を咲かせます。雄花は円錐花序の形をとり、両性花は雄花序の基部に単独でつきます。花弁は5つに深く裂け、萼も同様に5裂します。果実は楕円形で緑色をしており、下半分には突起があり、上半分は滑らかです。

成熟した果実は、中央の切れ目から分離し、上部が脱落して2つの黒い種子を放出します。この種子はコルク質で水に浮きやすく、水流によって散布されます。果皮は肉質ですが蒴果であるという特徴を持ちます。

分布と生育環境

日本においては、北海道から九州にかけて広く分布しており、特に西日本に多く見られます。国外では、朝鮮半島、中国、台湾、東南アジアなどに分布しています。主に、低地の水辺や湿地に生育し、アシなどの水生植物に絡みついて成長します。

分類と類似種

ゴキヅル属は東アジアからインドにかけて約7種が知られていますが、日本に自生するのはゴキヅルのみです。葉の形には変異が多く、過去には葉の形状による分類も試みられました。モミジバゴキヅルやツタバゴキヅルといった名前も存在しますが、これらは種内変異として扱われることが多いようです。

保護の状況

ゴキヅルは、河川改修や除草剤の使用など、生育環境の悪化により、近年減少傾向にあります。多くの都道府県で絶滅危惧種または準絶滅危惧種に指定されており、保護対策が求められています。特に、都市部近郊では、河川開発による生育地の消失が懸念されています。

利害

日本では、ゴキヅルが直接的な利益をもたらすことはありません。しかし、中国では「盒子草」と呼ばれ、種子や全草が利尿や解毒の目的で薬用として利用されています。薬効成分の研究も進められています。

和名の由来

和名の「ゴキヅル」は、「合器蔓」に由来し、果実が二つに分かれる様子が、蓋付きの容器を連想させることにちなんでいます。別名として、「嫁合器」「嫁皿」などがあります。

参考文献

大橋広好他編、『改訂新版 日本の野生植物 3 バラ科～センダン科』、(2016)、平凡社
牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
北村四郎他、『原色日本植物図鑑・草本編I』改訂66刷、(1994)、保育社
大井次三郎、『新日本植物誌顕花編』、(1983)、至文堂
池田健蔵、遠藤博編、『原色野生植物検索図鑑 [離弁花編]』、(1996)、北隆館
金田洋一郎、『アサヒ園芸BOOK 大きくて見やすい！比べてよく分かる！ 山野草図鑑』、(2020)、朝日新聞出版
中西弘樹、『タネは旅する 種子散布の巧みな植物』、(2022)、八坂書房
中山至大他、『日本植物種子図鑑』、(2000)、東北大学出版会
* 大森雄治、「ゴキヅル」：『朝日百科　植物の世界 7』、(1997)、朝日新聞社、：p.26

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