ゴジ

ゴジ：古代スカンジナビアの神官と首長

ゴジ（古ノルド語: goði、複数形: goðar）は、古代スカンジナビアにおける神官かつ族長を意味する言葉です。女性形はgyðjaと言います。その起源は古く、ゴート語訳聖書にも「聖職者」として類似の語が登場します。

スカンジナビアにおけるゴジ

スカンジナビア各地のルーン石碑や地名にもゴジの痕跡が見られますが、特にアイスランドにおいてその存在が際立っていました。サガの中では、ゴジは自治区（goðorð）の宗教的、政治的な指導者として描かれています。

キリスト教化以前のアイスランドでは、神殿（ホヴ）は私有財産であり、ホヴゴジと呼ばれる神官によって維持されていました。彼らはキリスト教導入後も、アイスランドの政治制度において重要な役割を担い続けました。

ゴズオルズ：ゴジの支配領域

ゴズオルズ（goðorð）は、「ゴジ権」または「首領権」を意味し、ゴジによって支配された地域を指します。アイスランドでは、870年から930年の開拓時代初期にゴジが成立しました。元々は神々の儀式を司る神官でしたが、アイスランド共和国時代（930年 - 1262年）には世俗的な権力を持つ首領へと変化しました。

自由農民はゴジと契約し、スィングメン（þingmenn）と呼ばれる支持者となりました。彼らは民会でゴジを支持する義務を負い、ゴジは自身の支配地域（ゴズオルズ）内で彼らを保護しました。ゴジは地区民会を主宰し、アルシング（全島集会）では判事を指名する他、立法者としての役割も担いました。共和国時代のアイスランドには中央政府が存在しなかったため、ゴジはまず支配地域内で裁判を行い、解決しない場合はアルシングへ持ち込まれました。

ゴズオルズは、開拓時代からの有力者の子孫によって世襲されましたが、売買や賃貸も可能でした。このため、ゴジの地位は限られた人々に独占され、ゴジ同士の権力争いの原因にもなりました。

ゴジの経済的役割

ゴジは地域の交易管理も行っていました。ゴズオルズに船が寄港すると、優先的に取引を行い、商品の価格を決定しました。外国からの商人は、地元のゴジや宿泊を頼む農場主との良好な関係を維持する必要がありました。

キリスト教化とゴジの衰退

1000年のアルシングでキリスト教の受容が決定された後も、教会はゴジによって支配され、十分の一税が徴収されました。しかし、13世紀には教会の勢力がゴジを凌駕し、共和国自体も崩壊に向かいました。ゴジ同士の争いが激化し、ノルウェーによる政治介入を招き、最終的にアイスランドはノルウェーの支配下に置かれることになりました。

1271年にノルウェー法が導入されたことで、ゴジの制度は廃止されました。

現代におけるゴジ

現代では、ゴジという言葉はゲルマン・ネオペイガニズムの信者、特にアサトルにおいて、聖職者の肩書きとして使用されています。

ゴジは、古代スカンジナビア社会において宗教、政治、経済の各方面で重要な役割を果たした存在でした。その制度は廃止されたものの、現代の文化にも影響を与え続けています。

もう一度検索