ゴジラ (バンド)

1972年、多様化する日本のロックシーンの一角に、短期間ながらユニークな足跡を残したロックバンド、その名も「ゴジラ」（Godzilla）。同年春に結成され、その年のうちに自然消滅した、ある意味で伝説的な存在である。

バンドは主に3名のミュージシャンによって構成されていた。メンバーは、渡辺プロダクションを離れ、ソロ第2作『Merrill 1』を発表したばかりのアラン・メリル、そして旧エモーションのメンバーだった近田春夫と金沢ジュン（金沢純一）だ。近田と金沢は、アラン・メリルのソロアルバムに伴うライブでバッキングを務めていた縁から、彼と共に新たなバンドを結成した。

ゴジラの最大の特徴は、固定のベース奏者が不在だったことにある。ライブ演奏では、近田春夫がドアーズのレイ・マンザレクのように、ローズ・ピアノを左手で操りベースパートを担当した。レコーディングにおいては、アラン・メリル自身がベースを演奏し、多重録音で対応したと伝えられている。

活動期間中の記録として、アラン・メリルの回想によれば、1972年夏に長野県軽井沢町のアゼリアクラブで約1ヶ月間の連続出演を行った。また、映画『小さな恋のメロディ』（日本公開は1971年）のプロモーションとして、全国での前座ツアーを行ったという話もあるが、映画公開年とバンド結成時期にはずれがあるため、活動時期の特定は難しい。

バンドはオリジナルの楽曲を4曲制作したが、これらはデモ音源に留まり、商業リリースには至らなかった。ゴジラの名前で唯一公式に残された音源は、1972年にキングレコードから発売された企画アルバム『ROCK IMPULSE! ゴーゴー大パーティー』（2枚組）へのセッション参加である。

このアルバムで、ゴジラはRecord 2のSide CおよびDの演奏を担当した。イエロージプシーの加藤ヒロシが編曲、ギター、ボーカルで加わり、アラン・メリル（ギター、ベース）、近田春夫（キーボード）、金沢純一（ドラムス、ボーカル）と共に演奏を行った。披露されたのは当時の著名な洋楽カバー曲ばかりである。

Side Cには、ディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」、ローリング・ストーンズの「タンブリング・ダイス」、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「サムデイ・ネバー・カムズ」、T・レックスの「メタル・グルー」、ゲイリー・グリッターの「ロックン・ロール」が収録。Side Dには、T・レックスの「ゲット・イット・オン」、ザ・ギャラリーの「恋するあなた」、マウンテンの「暗黒への旅路」、イングランド・ダン&ジョン・フォード・コーリーの「シーモンの涙」、そして「トゥルー・ブルー」といった楽曲が収められている。

ゴジラが半年ほどで自然消滅した背景には、メンバーそれぞれの多忙な活動が挙げられる。近田春夫は同年中に後の近田春夫&ハルヲフォンの母体を結成し、内田裕也のバンドにも参加。アラン・メリルも、かまやつひろしのバックバンド（後のウォッカ・コリンズへと繋がる）に参加するなど、個々の活動が活発化していた。加えて、バンドとして商業的なリリースや成功の機会を得られなかったことも、短期間での活動停止に繋がった要因と考えられる。

短命ながらも、アラン・メリル、近田春夫、金沢ジュンという日本のロック史に名を残すミュージシャンたちが集い、独特な編成で演奏した記録は、1970年代初頭の音楽シーンを知る上で興味深い一例と言えるだろう。

もう一度検索