ゴダールのマリア

ゴダールのマリア：二つのマリア物語

1984年、日本公開された『ゴダールのマリア』は、一見するとシンプルなタイトルながら、実はアンヌ＝マリー・ミエヴィル監督による短編映画『マリアの本』（Le livre de Marie）と、巨匠ジャン＝リュック・ゴダール監督による長編映画『こんにちは、マリア』（Je vous salue, Marie）という、全く異なる作風を持つ二つの映画から構成された作品です。両作品は、それぞれフランス、スイスなどを含む国際的な製作体制で制作され、その独自性と複雑さを反映した、見る者を魅了する作品となっています。

『マリアの本』：静謐な物語

『マリアの本』は、28分の短編映画です。監督を務めたアンヌ＝マリー・ミエヴィルは、ゴダール監督と共に1973年からグルノーブルで「ソニマージュ」を設立し、長年にわたって共同作品を制作してきた人物です。『うまくいってる?』『6x2』『ヒア＆ゼア こことよそ』『二人の子どもフランス漫遊記』など、数々の共同監督作品を経て培われた彼女の監督手腕は、本作において存分に見ることができます。

ミエヴィルは、1983年に単独監督作品として『ハウ・キャン・アイ・ラヴ』を制作しており、『マリアの本』は、彼女にとって二作目の単独監督作品となります。この作品は、ゴダールとの長年の協働経験を土台に、静謐で詩情豊かな映像美で観る者を魅了し、独自の視点でマリアという人物、そして母性や信仰といったテーマを繊細に描き出しています。撮影はカロリーヌ・シャンプティエとジャン＝ベルナール・ムヌー、録音はフランソワ・ミュジーが担当し、音楽にはショパンとマーラーの作品が使用されています。キャストにはブリュノ・クレメール、オーロール・クレマン、レベッカ・ハンプトンらが名を連ねています。

『こんにちは、マリア』：ゴダールの挑戦

一方、80分という長編映画である『こんにちは、マリア』は、ゴダール監督の代表作の一つとして知られています。ゴダール監督は、前年の1983年には本作のための資金調達に奔走し、『映画「こんにちは、マリア」のためのささやかな覚書』を製作してスイス国内の出資者へのプレゼンテーションを行っていました。この努力が実り、本作は無事製作される運びとなりました。

ゴダールの監督作品らしく、実験的な映像表現や斬新な編集が用いられており、従来の映画の枠を超えた、独特の世界観を展開しています。撮影はジャン＝ベルナール・ムヌーとジャック・フィルマン、録音は『マリアの本』と同じくフランソワ・ミュジーが担当し、美術はイヴァン・ニクラスが、編集はアンヌ＝マリー・ミエヴィルが担当するという、興味深いスタッフ陣容となっています。音楽にはバッハとドヴォルザークの作品が使用されています。キャストにはミリアム・ルーセル、ティエリ・ロード、フィリップ・ラスコット、マノン・アンデルサン、ジュリエット・ビノシュといった俳優陣が出演しています。

二つの視点、一つのテーマ

『ゴダールのマリア』は、異なる監督、異なる作風、異なる尺の二つの作品で構成されているにも関わらず、全体を通して「マリア」という存在、そして宗教、信仰、母性といった共通のテーマが貫かれています。それぞれの映画が独自にこれらのテーマを解釈し表現している点に、この作品の魅力と深みがあると言えるでしょう。ミエヴィルとゴダールの長年の信頼関係、そしてそれぞれが持つ独自の表現方法が融合した、希有な映画作品として、『ゴダールのマリア』は高く評価されています。

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