6x2

ジャン＝リュック・ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルが共同で監督・脚本を手掛けたフランスのテレビ映画『6x2』（ろくかけるに、仏語: Six fois deux, Sur et sous la communication）は、1976年に製作されました。この作品は、全6部構成、2パートに分かれた100分の番組という特徴を持ちます。タイトルの『6x2』は、6つのエピソードが2つのパートで構成されていることに由来しています。

ゴダールは1972年、『ジェーンへの手紙』の完成を機に「ジガ・ヴェルトフ集団」を解散した後、ミエヴィルと共に映画製作会社「ソニマージュ」をグルノーブルに設立し、パリから拠点を移しました。この移転は、ゴダールが自身の創作活動に新たな方向性を見出す転換点となりました。グルノーブルでの活動は、若手プロデューサー、ジャン＝ピエール・ラッサムとの協働や、ベテランのジョルジュ・ド・ボールガールとの仕事を通して、新たな創造性を生み出す舞台となりました。

『6x2』は、パリのフランス国立視聴覚研究所（INA）からの企画として製作されました。1975年から撮影が始まり、ゴダールとミエヴィルが初めて共同監督を務めた作品でもあります。注目すべきは、本作がゴダールにとって初の完全ビデオ収録作品であったことです。それ以前の作品では、ビデオテープを一部使用し、モニタを映画用カメラで撮影する手法が用いられることもありましたが、『6x2』では、全編がベータカムで撮影されました。この新たな技術への挑戦は、ゴダールの革新的な映画製作への姿勢を示しています。

撮影は、ウィリアム・リュプチャンスキーとドミニク・シャピュイが担当しました。リュプチャンスキーは「ジガ・ヴェルトフ集団」時代からゴダールと仕事を共にしており、『パート2』に続き、ゴダールの作品に携わっています。一方、シャピュイはジャック・リヴェット監督の作品でキャリアをスタートさせ、リュプチャンスキーの助手としてゴダール作品に参加しました。両者の撮影による映像は、ゴダール独特のスタイルを効果的に表現しています。

『6x2』の編集はアンヌ＝マリー・ミエヴィルが行い、その編集技術も作品全体の完成度を高める上で重要な役割を果たしています。グルノーブル時代、ゴダールとミエヴィルはラッサムのプロデュースの下、『ヒア&ゼア・こことよそ』、『うまくいってる?』といった作品も共同で制作し、ビデオ技術を駆使した独自の映画表現を追求しました。こうした経験は、後にスイスのロールに移住後制作された『勝手に逃げろ/人生|勝手に逃げろ_人生』や、壮大なプロジェクト『ゴダールの映画史』へと繋がっていくのです。

『6x2』は、全6部構成で、各部は下記の通りです。

1A だれもいない (Y'a personne)
1B ルイゾン (Louison)
2A もののレッスン (Leçons de choses)
2B ジャン＝リュック (Jean-Luc)
3A 写真と会社 (Photos et Cie)
3B マルセル (Marcel)
4A 歴史ではない (Pas d'histoire)
4B ナナたち (Nanas)
5A われわれ三人 (Nous trois)
5B 男女のルネたち (René(e)s)
6A 前と後 (Avant et après)
6B ジャクリーンとルドヴィック (Jacqueline et Ludovic)

これらのエピソードは、それぞれ異なるテーマや視点を持ちながら、全体としてゴダールとミエヴィルの実験的な映像表現と、社会や人間関係への鋭い洞察を示す作品となっています。『6x2』は、ゴダールがビデオ技術の可能性を積極的に探求し、新たな映画表現を切り開いた重要な作品として位置づけられています。それは、後の彼の作品制作、特に『ゴダールの映画史』へと続く、手法上の第一歩であったと言えるでしょう。

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