映画「こんにちは、マリア」のためのささやかな覚書

ジャン＝リュック・ゴダール監督による短編映画『映画「こんにちは、マリア」のためのささやかな覚書』（仏題：Petites notes à propos du film 'Je vous salue, Marie'）は、1983年に制作されたフランスとスイスの合作作品です。この作品は、ゴダール監督の長編映画『こんにちは、マリア』のプレゼンテーションを目的として制作されたビデオ映画であり、いわば次回作のプロモーションフィルムと言えるでしょう。

この短編映画は、1979年に制作された『「勝手に逃げろ/人生|勝手に逃げろ_人生」のシナリオ』と同様のコンセプトで作られています。『「勝手に逃げろ/人生|勝手に逃げろ_人生」のシナリオ』が長編映画『勝手に逃げろ/人生|勝手に逃げろ_人生』のプロモーション用として制作されたように、『映画「こんにちは、マリア」のためのささやかな覚書』も、スイス国内の出資者に向けて『こんにちは、マリア』をアピールする目的で制作されました。

映画は、タイプライターを打つゴダール監督自身の姿から始まります。その後、マリア役の候補であるミリアム・ルーセルを撮影したテスト映像が映し出されます。興味深いのは、この映像にフェデリコ・フェリーニ監督の『道』（1954年）でジュリエッタ・マシーナが演じたジェルソミーナの姿が重ね合わされている点です。これは、ゴダール監督の意図的な演出であり、彼の映画におけるイメージや表現方法について示唆を与えてくれます。

さらに、映画にはゴダール監督とアンヌ＝マリー・ミエヴィルによる会話シーンも収録されています。彼らは、フランソワーズ・ドルトやヨハン・ゼバスティアン・バッハについて語り合います。この会話は、ゴダール監督の芸術思想や、彼を取り巻く文化的・歴史的文脈を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。これらのシーンは、単なるプロモーション映像にとどまらず、ゴダール監督自身の映画論や創作過程の一端を垣間見ることができる貴重なドキュメントとなっています。

『こんにちは、マリア』は、本作が制作された翌年の1984年に完成し、1985年1月23日にフランスで公開されました。日本では『ゴダールのマリア』というタイトルで、ゴダール監督の長編映画『こんにちは、マリア』と、ミエヴィル監督の短編映画『マリアの本』を2本立てで公開されました。

日本では、CS放送の洋画★シネフィル・イマジカで『ゴダールのマリアに関するささやかな覚書』というタイトルでテレビ初放映されました。また、2003年には紀伊国屋書店から『ゴダールのマリア』というタイトルで、映像付録として発売されています。

スタッフ・キャストは監督・脚本がジャン＝リュック・ゴダール、出演はジュリエット・ビノシュ、ティエリー・ロード、ミリアム・ルーセル、ジャン＝リュック・ゴダール、アンヌ＝マリー・ミエヴィルです。製作会社はJLGフィルムです。

この短編映画は、ゴダール監督の作品を理解する上で非常に貴重な資料であり、彼の映画制作へのアプローチや、当時の彼の思想、そして彼を取り巻く文化的・芸術的環境を知るための重要な手がかりとなるでしょう。特に、ゴダール監督の初期の作品から彼のキャリア全体を網羅したいと考えている研究者や映画愛好家にとって、必見の作品と言えるのではないでしょうか。

もう一度検索