ゴ・ディン・ジエム

ゴ・ジン・ジェムは、ベトナムの政治家であり、南ベトナムの初代大統領を務めました。1901年にベトナム中部のクアンビン省で生まれ、阮朝の官僚であった父を持ち、貴族の家系に育ちました。フランスの植民地支配に不満を抱きながらも、1933年に阮朝の内相に就任しましたが、第二次世界大戦中に日本軍が仏印を占領すると、内閣への参加を拒否し、その後亡命生活を送りました。

1954年、ジュネーヴ協定の締結直前に帰国し、ベトナム国（当時、フランスの傀儡政権と見なされていた）の首相に就任します。その後、1955年にバオ・ダイ帝を国民投票で退任させ、南ベトナム共和国を樹立して初代大統領に就任しました。しかし、この選挙には不正があったとの指摘があります。

大統領として、ジェムは反共主義を強く打ち出し、アメリカの支援を受けながら、南北統一選挙を拒否しました。国内では、弟のゴ・ディン・ヌーを顧問に任命し、秘密警察や特殊部隊を掌握させ、共産主義者や反政府勢力を厳しく弾圧しました。1961年には、アメリカ軍による南ベトナム解放民族戦線（ベトコン）への攻撃が開始され、ジャングルへの枯葉剤散布を許可しました。この政策は、多くの犠牲者を生むことになり、国内外からの批判を浴びました。

また、熱心なカトリック教徒であったジェムは、仏教徒を冷遇し、1963年には仏教徒への弾圧を強化しました。これにより、仏教徒の抗議運動が激化し、僧侶の焼身自殺事件は国際的な衝撃を与えました。これに対し、ジェムの義理の妹であるマダム・ヌーは、焼身自殺を「人間バーベキュー」と発言し、さらに批判を浴びました。アメリカのケネディ大統領は、南ベトナム政府への内政干渉を強め、ジェムの関係が悪化しました。

アメリカ政府の黙認のもと、1963年11月2日、ジェム政権は軍事クーデターによって崩壊しました。ジェム自身も弟のヌーと共に殺害され、南ベトナムは政治的混乱に陥りました。ジェム政権崩壊後もクーデターが繰り返され、南ベトナムの政治は極度に不安定な状態が続きました。

ジェムは、南ベトナム解放戦線を「ベトコン（越共）」と名付けた人物としても知られています。解放戦線には非共産系の構成員もいましたが、実質的には共産主義政府の北ベトナムにより支配・援助されていたため、この呼称は必ずしも間違いとは言えません。

ジェムの政治は、その強権的な手法と仏教徒への弾圧によって、国内の反発を招き、最終的には悲劇的な結末を迎えることになりました。彼の死は、南ベトナムの政治混乱をさらに深刻化させ、その後のベトナム戦争にも大きな影響を与えました。

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