バオ・ダイ

バオ・ダイ：激動の時代を生きたベトナム最後の皇帝

バオ・ダイ（保大、1913年10月22日 - 1997年7月30日）は、阮朝大南国の第13代にして最後の皇帝であり、その生涯は激動のベトナム近現代史を象徴しています。彼は、皇帝、ベトナム帝国皇帝、そしてベトナム国元首など、複数の立場で歴史に関わりました。

生涯

生い立ちとフランス留学

1913年、バオ・ダイは阮朝の都、フエの皇城内で生まれました。幼名は永𪇘（ヴィン・チュ）。幼少期には、宗主国であったフランスに留学し、西洋式の教育を受けました。

皇帝即位と帰国

1925年、父である啓定帝の崩御を受け、1926年にバオ・ダイは皇帝に即位しました。年号を「保大」と定めましたが、その後も留学を続けるため再びフランスへ渡りました。1932年に帰国し、親政を開始。フランスからの自立を目指し、内政改革に尽力しました。1934年には、コーチシナ出身の阮有氏蘭（南芳皇后）と結婚しました。

ベトナム帝国皇帝

第二次世界大戦末期の1945年、日本軍がフランス領インドシナを制圧すると、バオ・ダイはフランスからの独立を宣言し、ベトナム帝国を樹立、その皇帝となりました。しかし、日本の敗戦後、ベトナムでは八月革命が勃発。バオ・ダイは退位し、ベトナム民主共和国の最高顧問に就任しました。この時期、彼は革命指導者ホー・チ・ミンのカリスマ性に大きな衝撃を受けたと言われています。

亡命とベトナム国元首

ベトナム民主共和国政府内で自身の立場に危機感を覚えたバオ・ダイは、1946年に亡命。その後、第一次インドシナ戦争が勃発すると、1949年に帰国し、フランスとの協定に基づき成立したベトナム国の元首となりました。この間、南ベトナムのコーチシナ共和国を吸収し、ベトナム国家の統一に貢献しました。

廃帝と亡命

1954年のジュネーブ協定によりベトナム国は国際的な承認を得ましたが、1955年、首相に任命したゴ・ジン・ジェムによって国民投票による事実上のクーデターにより廃位されました。その後、フランスへ亡命し、カンヌ付近で余生を送りました。

死去

ベトナム戦争終結と南北統一を見届けたバオ・ダイは、1997年7月30日にパリの陸軍病院で生涯を閉じました。

宗室

后妃

南芳皇后阮有氏蘭
裴夢蝶
黎氏飛映
黄小蘭
李麗荷
泰芳皇后

子女

嫡子
東宮皇太子バオ・ロン（1936年 - 2007年）
公主阮福芳梅（1937年-2021年）
公主阮福芳蓮
公主阮福芳蓉
皇子バオ・タン（1943年 -2017年）
庶子
阮福芳明（黎氏飛映所生）
阮福保恩（黎氏飛映所生）
阮福芳草（裴夢蝶所生）
阮福保隍（裴夢蝶所生）
阮福保山（裴夢蝶所生）
* 阮福芳慈（フランス人女性ヴィッキー所生）

保大通宝

バオ・ダイは、1933年に親政を始めると、歴代皇帝の例に倣い、年号を冠した銅銭「保大通宝」を鋳造しました。これは、2種類の形式があり、一つは直径約27mm、重量3.5gから4.5gで、裏に十文の換当価の表示があるもの。もう一つは直径約24mm、重量約3gで裏無地のものです。これらは円形方孔の、いわゆる穴あき銭の形態をしており、東アジア諸国において2000年以上にわたって作られ続けたこの形式の貨幣としては世界最後のものであるとされています。当時、皇帝の地位は名目的なものでしたが、伝統的な穴あき銭を発行する権限は保持していました。

これらの貨幣は、フランス領インドシナの公式通貨であるピアストル貨とは別体系で機能し、フランス側は通貨の統一を図りましたが、農村部では小額取引に便利なサペック貨の需要が根強く、統一は実現しませんでした。

1934年、保大帝は勅諭を発し、阮朝発行の穴あき銭とピアストル貨との交換率を固定しました。

また、インドシナ植民地政府も、保大通宝の銘が刻印された銅貨を発行しましたが、これは形状や価値が異なるものでした。

まとめ

バオ・ダイは、激動の20世紀を生きたベトナムの最後の皇帝でした。幼少期のフランス留学、皇帝即位、ベトナム帝国の樹立、ベトナム民主共和国での最高顧問就任、そしてベトナム国元首としての活躍と、様々な立場で歴史に関わりました。その生涯は、ベトナムが近代国家として歩む上で、多くの課題と可能性を内包していました。彼の物語は、ベトナムの複雑な歴史を理解する上で、非常に重要な要素と言えるでしょう。

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