ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ (探査機)

ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ

「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」（Ghost Riders in the Sky）は、アメリカの航空宇宙企業ファイアフライ・エアロスペースが手掛けた、同社にとって初めての月面着陸ミッションです。「Blue Ghost Mission 1」という別名でも知られるこのプロジェクトは、月の「危難の海」（Mare Crisium）の西側に位置するラトレイユ山と呼ばれる地点への到達を目指しました。ミッション遂行のために、ファイアフライ社が独自に開発した月着陸機「ブルーゴースト」が投入されました。

このミッションは、NASAが推進する商業月面輸送サービス（CLPS: Commercial Lunar Payload Services）プログラムの一環として位置づけられています。CLPSプログラムに基づき、NASAは月面での科学探査や技術実証のために開発された10種類のペイロード（搭載機器）をファイアフライ社に輸送依頼し、「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」によってこれらの機器が月面へ運ばれました。

打ち上げは2025年1月15日にフロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースX社のファルコン9ロケットを使用して実施されました。この打ち上げにおいては、日本の宇宙企業ispace社が開発した月着陸機「HAKUTO-R ミッション2」も同一のロケットに搭載されており、民間企業が開発した二つの月着陸機が同時に一つのロケットで打ち上げられるという、史上初の事例となりました。その後、2025年2月14日には月周回軌道への投入に成功しています。

科学的な目的

「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」の主要な目的の一つは、NASAから委託された多様な科学・技術ペイロードを月面へ送り届けることです。これらのペイロードによって得られるデータからは、月の表面を覆う微細な塵である「レゴリス」の挙動や特性、月の内部構造、さらには地球の磁気圏に関する知見など、幅広い科学分野での成果が期待されています。

具体的には、搭載されたNASAの観測機器のうち、「LMS」（月磁気地電流サウンダ）と「LISTER」（迅速な地下熱探査のための月面計測機器）は、月の熱構造やその形成・進化の歴史を解明するためのデータ収集を行います。「LEXI」（月環境太陽圏X線イメージャ）は、地球の磁気圏の状態を観測します。

また、月面におけるダスト（レゴリス）の付着は、機器の故障や宇宙飛行士の活動を妨げる深刻な課題です。これに対処するため、「RAC」（レゴリス粘着特性評価）、「EDS」（電気力学ダストシールド）、そして「LPV」（ルナーPlanetVac）といったペイロードは、レゴリスが様々な素材に付着する様子を調べたり、電場を利用してダストの蓄積を防ぐ、あるいは除去・移動させる技術の実証試験を実施します。

搭載ペイロード

NASAのCLPSプログラムに基づき「ブルーゴースト」に着搭載された主要なペイロードの一部を以下に挙げます。

LISTER: 月面下2〜3mの温度変化や熱伝導率を測定し、月内部からの熱流を調査します。
LPV: ガス噴射でレゴリスを採取・篩分けし、採取物の画像を撮影する装置です。
NGLR: 地球と月の距離をミリメートル未満の高精度で測るための高精度反射鏡アレイです。
RAC: 15種類の素材に対するレゴリスの付着具合を試験します。
RadPC: 強い放射線環境下でもエラーから自動回復可能なコンピュータの実証を行います。
EDS: 電場を利用して月面ダストを浮遊・除去・移動させる技術を実証します。
LEXI: 地球磁気圏シース・境界面を軟X線で撮影し、太陽風エネルギーの流入過程を調べます。
LMS: 月内部の電気伝導特性を測定し、月の温度構造や歴史を探るためのデータを提供します。
LuGRE: 月への遷移軌道上や月面でのGNSS信号受信・活用を実証します。
SCALPSS 1.1: 月着陸噴射による月面の変化（摩耗やクレーター形成）をステレオカメラで観測します。

これらの科学・技術ペイロードに加えて、ピラミッド形状の芸術作品であり、種子銀行なども収めた「LifeShip」といったペイロードも搭載されました。

ミッションの経過と成果

ファイアフライ・エアロスペース社は、この「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」ミッションにおいて、着陸機の展開やシステムの状態確認など、17段階に及ぶ重要なマイルストーンを設定しました。月面着陸後の運用では、月の夜を迎えるまでの期間、そしてその後も約5時間にわたる活動を継続し、最終的にミッション終了時点までに設定された全てのマイルストーンを100パーセント達成しました。

これは、ファイアフライ社にとって初の月ミッションを成功裏に完了させたことを意味し、NASAが進める商業月面輸送サービスにおける重要な実績となりました。このミッションによって得られる多角的な科学データや技術実証の成果は、将来的な月探査や、月面における持続的な活動の実現に向けた貴重な基盤となることが期待されています。

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