ファイアフライ・エアロスペース

ファイアフライ・エアロスペース (Firefly Aerospace) は、2014年に事業を開始したアメリカ合衆国の航空宇宙開発企業です。テキサス州シーダーパークを拠点としています。設立当初はユニークな構造を持つロケット開発を目指していましたが、経営破綻という困難を乗り越え、現在は小型衛星打ち上げ用ロケット「ファイアフライ・アルファ」を主力事業として展開しています。

沿革

この企業は、2014年にファイアフライ・スペース・システムズ (Firefly Space Systems) として設立されました。創業当初は、拡張性の高いエアロスパイクエンジンや炭素繊維複合材製の機体、加圧供給式エンジンといった、革新的ながら特徴的な構成を持つロケットの開発に取り組んでいました。しかし、開発は進んだものの、実際にロケットを打ち上げることなく、2017年3月に経営破綻に至ります。

その後、ウクライナを拠点とする実業家マックス・ポリアコフ氏の支援のもと、現在のファイアフライ・エアロスペースと社名を変更して再建されました。再建後は、初期の複雑な構造を改めて、エンジンをより一般的な方式に変更しつつ、ペイロード（搭載物）能力の向上を図るなど、現行の主力機であるファイアフライ・アルファへと機体設計を抜本的に見直しました。開発が再開された後、アメリカ合衆国政府による特定の規制を受けたことから、2022年2月には主要な資本が投資会社であるAE Industrial Partnersへ譲渡されることとなりました。こうした変遷を経ながらも開発は続けられ、2022年10月1日に行われたファイアフライ・アルファの二度目の打ち上げにおいて、衛星を初めて予定軌道に投入することに成功しました（ただし、目標としていた厳密な軌道からのずれは見られました）。

主な事業分野

ファイアフライ・エアロスペースは、自社でのロケット開発・運用を中核としつつ、複数の宇宙関連プロジェクトに携わっています。具体的には、小型衛星打ち上げ用ロケット「ファイアフライ・アルファ」の運用、月面着陸機「ブルーゴースト」の開発、そしてノースロップ・グラマンが開発する大型ロケット「アンタレス330」の第一段開発協力などが挙げられます。

開発ロケット

ファイアフライ・アルファ (Firefly Alpha)

ファイアフライ・アルファは、ファイアフライ・エアロスペースが開発・運用する二段式の小型ロケットです。全長はおよそ29.48メートル、直径は1.8メートルです。推進システムとして、第一段には「リーヴァー1」エンジンを4基、第二段には「ライトニング1」エンジンを1基搭載しています。推進剤としては、上下段ともにケロシン (RP-1) と液体酸素 (LOX) を使用するタイプです。このロケットは、高度の低い軌道には最大1,170キログラム、太陽同期軌道には最大745キログラムのペイロードを投入する能力を有しています。一機あたりの価格は1500万ドル程度が見込まれています。

初めての打ち上げは2021年9月に実施されましたが、第一段エンジンのトラブルにより失敗に終わりました。しかし、2022年10月の二度目の打ち上げで、目標軌道からの若干のずれはあったものの、衛星の軌道投入という主要な目標を達成しました。2024年2月1日には、迅速な打ち上げ要求に応じられる「即応打ち上げ」体制を標準化する方針を発表しており、今後の運用拡大を目指しています。

Medium Launch Vehicle (MLV)

MLV（中型打ち上げ機）は、ノースロップ・グラマンとファイアフライ・エアロスペースが共同で開発を進めている大型ロケットです。2025年中の初打ち上げを目指しています。全長は55.7メートル、ペイロードを保護するフェアリングの直径は5.2メートルとなる計画です。推進システムには、第一段に新型の「ミランダ」エンジンを7基、第二段には「ミランダ・バキューム」エンジンを1基搭載します。こちらも推進剤にはケロシン (RP-1) と液体酸素 (LOX) を用います。低軌道へは最大16,000キログラムもの重量物を運搬する、高い打ち上げ能力を持つ計画です。

主要エンジン

ミランダ (Miranda)

ミランダエンジンは、ノースロップ・グラマンのアンタレス330ロケットの第一段、そして将来のMLVロケットの第一段に使用するために開発された次世代ロケットエンジンです。地上での推力は1,023キロニュートン、比推力（ISP）は305秒という性能を発揮します。ファイアフライ社の既存エンジンであるリーヴァーやライトニングと同様に、RP-1とLOXを推進剤とし、燃焼タップオフサイクルを採用しています。このエンジンは、開発段階では「リーヴァー2」という名称で知られていました。

ミランダ・バキューム (Miranda Vacuum)

ミランダ・バキュームは、MLVロケットの第二段向けに特別に設計された、真空環境での効率を最適化した派生型エンジンです。真空環境での推力は890キロニュートン、比推力（ISP）は328秒となります。こちらも推進剤はRP-1とLOXです。軌道上で複数の噴射が必要となるようなミッションに対応するため、再着火が可能な設計となっています。

月面着陸機

ブルーゴースト (Blue Ghost)

ブルーゴーストは、NASAが推進する商業月面輸送サービス（CLPS: Commercial Lunar Payload Services）計画のために、ファイアフライ・エアロスペースが開発した月面着陸機です。最初のミッションは「ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ」と名付けられ、2025年1月に打ち上げられました。そして同年3月2日には、民間企業としては歴史上二例目となる月面への軟着陸を成功裏に達成しました。

宇宙開発市場における同業他社としては、ロケット・ラボやヴァージン・オービット、アストラなどが挙げられます。

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