ゴードン・ハスケル

イングランドのドーセット州で生を受けたゴードン・ハスケル（1946年 - 2020年）は、ベーシスト、ギタリスト、作曲家、作詞家として多岐にわたる才能を発揮したミュージシャンです。

初期からの音楽への道

ハスケルの音楽キャリアは、学生時代に友人ロバート・フリップとの出会いから始まりました。共にいくつかのバンドを結成し、地元の音楽シーンで活動を展開しますが、レコードデビューには至りませんでした。その後、彼はザ・ダウランド・ブラザーズのツアーに参加し、音楽家としての経験を積みます。1965年末には、当時注目を集めていたグループ、フルール・ド・リスにベーシストとして加わり、ロンドンの活気ある音楽界に身を投じました。リンゴ・スター所有の屋敷に下宿し、ジミ・ヘンドリックスらと生活を共にしたこの時期は、彼にとって貴重な経験となりました。フルール・ド・リスでの活動を通じてレコードデビューを果たし、多くのセッションにも参加。この頃に単独で提供した楽曲「レイジー・ライフ」が南アフリカでチャートの上位にランクインするという成功も収めています。

ソロ活動の開始とキング・クリムゾン

フルール・ド・リス脱退後、ハスケルはソロアーティストとしての歩みを始め、1969年にファーストアルバム『セイル・イン・マイ・ボート』をリリースしました。同じ頃、旧友フリップが結成したキング・クリムゾンのリハーサルを見学する機会が増え、やがてバンドのセカンドアルバム『ポセイドンのめざめ』にボーカリストとして招かれます。この客演がきっかけとなり、彼はベーシスト兼ボーカリストとしてキング・クリムゾンに正式加入し、名盤とされるサードアルバム『リザード』の制作に参加しました。しかし、アルバム完成後のライブに向けたリハーサル中にフリップとの関係が悪化し、ごく短期間でグループを離れることとなります。

多彩な活動と日本との関わり

キング・クリムゾン脱退後、ハスケルはアトランティック・レコードとの契約を手にし、セカンドソロアルバム『歳時記』を制作。ジョン・ウェットンなど才能あるミュージシャンと共に作り上げたこの作品は、彼のソロキャリアにおける重要な一歩となりました。その後も自身のソロ活動を続ける一方、様々なアーティストのバックバンドやセッションベーシストとして多忙な日々を送ります。ティム・ハーディンやフルール・ド・リス時代の盟友ブリン・ハワースらとの共演は特筆されます。1970年代後半には、加藤ヒロシらとバンド「ジョー」を結成し、ディスコ音楽作品も手掛けました。この頃、山口百恵のロンドン録音アルバムに参加し、日本の尺八奏者、村岡実のアルバム制作のために初来日を果たすなど、日本の音楽シーンとの交流も生まれました。また、クリフ・リチャード・バンドのツアーに参加するなど、その活動範囲は多岐にわたります。

キャリアの転換と晩年の成功

1980年代に入ると、ハスケルはメジャーレーベルとの契約が終了し、しばらくはスペインや北欧などで弾き語りをするなど、音楽活動のスタイルを変えていました。しかし、自身のレーベルを設立し、1990年に久しぶりのソロアルバムを発表するなど、再び制作活動を本格化させます。そして2001年末、クリスマスソングとして発表した「How Wonderful You Are」が全英シングルチャートで2位となる大ヒットを記録し、彼にとって予期せぬ形で大きな成功を収めました。翌年リリースのアルバム「Harry's Bar」も全英アルバムチャートで2位を獲得し、再び脚光を浴びることとなりました。その後、ギリシャへの移住を経て、活動50周年を迎えた2015年には英国でのツアーも行い、晩年まで音楽への情熱を燃やし続けました。

逝去

2020年初頭に新作アルバムを発表し、ツアーを予定していましたが、新型コロナウイルスの影響で中止となりました。そして、2020年10月15日、癌との闘病の末、惜しまれつつ74年の生涯を閉じました。ゴードン・ハスケルは、メジャーシーンでの華やかな時期と、地道な活動の時期、そして晩年のサプライズヒットと、変化に富んだ音楽人生を送ったアーティストとして記憶されています。

主なディスコグラフィ（抜粋）
『セイル・イン・マイ・ボート』 (1969)
『歳時記』 (1971)
『ポセイドンのめざめ』 (キング・クリムゾン, 1970)
『リザード』 (キング・クリムゾン, 1970)
Harry's Bar (2002)
The Cat Who’s Got The Cream (2020)

もう一度検索