ゴーラ人

ゴーラ人：知られざるバルカンの少数民族

ゴーラ人（ゴーラじん、ゴーラ語: Горанци / Goranci）は、コソボ、北マケドニア、アルバニアの3国にまたがるゴーラ地方に居住する南スラヴ系の民族です。「高地人」を意味する「Горанци」という言葉が示すように、山岳地帯での生活を営んできました。

ゴーラという土地

ゴーラ（Гора / Gora）とは、「山」や「高地」を意味する言葉で、この地域一帯を指します。ゴーラ人は、この地で独自の文化と歴史を育んできました。

歴史

ゴーラ地域は、古くから様々な民族の交差点でした。6世紀から7世紀にかけてスラヴ人が定住し、その後ブルガール人が侵入しました。1455年にはオスマン帝国の支配下に入り、イスラム化が進みました。しかし、ゴーラ人はイスラム教を信仰しながらも、キリスト教的な伝統も維持し続けました。

地理的な孤立も、ゴーラ人の独自性を守る一因となりました。山岳地帯という地形が、外部からの影響を遮断し、独自の文化を守る砦となったのです。オスマン帝国からの脱出を図る人々も多く、アメリカなどへのディアスポラが形成されました。

20世紀に入ると、バルカン戦争や世界大戦を経て、ゴーラ地域はセルビア、そしてユーゴスラビアの一部となりました。しかし、貧困や飢饉に見舞われ、多くの人々が都市部へと移住しました。1999年のコソボ紛争後は、国際連合の統治下に入り、自治体の再編が行われました。

言語

ゴーラ人が話すゴーラ語（ゴランスキ / Goranskiまたはナシンスキ / Našinski）は、マケドニア語とセルビア語の中間的な特徴を持つスラヴ語の一種です。トルコ語やアルバニア語からの借用語も多く見られます。一部の研究者は、ゴーラ語をブルガリア語の方言とみなしています。

人口

1991年のユーゴスラビアの国勢調査では、ゴーラ自治体の人口は約16,000人とされました。しかし、紛争や経済危機によって人口は減少し、現在は10,000人を下回ると推定されています。多くの人々がアルバニアの首都ティラナなどへ移住しています。

文化と宗教

ゴーラ人の多くはイスラム教を信仰していますが、スラヴァや聖ゲオルギウスの日を祝うなど、正教会の伝統も受け継いでいます。民俗音楽では、2拍子のコロ（円舞）が特徴的で、ズルレ、カヴァル、タパンなどの楽器が用いられます。

ゴーラ人ディアスポラ

長い間、ゴーラ地域は開発が遅れており、多くの男性が出稼ぎに出ました。その結果、セルビア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、そしてアメリカ合衆国などにディアスポラが形成されました。

近年の状況

コソボ紛争後、ゴーラ地域は政治的に不安定な状況に置かれています。自治体の再編により、ゴーラ人は少数派となり、民族的アイデンティティの危機に直面しています。ボスニア語を教える学校の開設をめぐって論争が起こるなど、民族同化への懸念も高まっています。

ゴーラ人は、バルカン半島の複雑な歴史の中で、独自の文化を守り続けてきた少数民族です。その歴史、言語、文化は、周辺民族との関係の中で形成されてきました。しかし、近年は人口減少や民族的アイデンティティの危機に直面しており、その存続が危ぶまれています。

ゴーラ人の未来は、地域の安定と、民族的アイデンティティの尊重にかかっていると言えるでしょう。

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