ブルガール人

ブルガール人の歴史：中央アジアからバルカン半島へ

ブルガール人は、中世に中央アジア西部から東ヨーロッパへ移動したテュルク系遊牧民です。彼らが使用していた言語はブルガール語であり、その起源はオグール系部族にまで遡ると考えられています。2世紀頃にはウラル山脈を越え、カスピ海と黒海の間に広がる草原地帯で遊牧生活を送っていました。

大ブルガリアの興亡

5世紀頃より、ブルガール人は東ローマ帝国領への侵入を繰り返すようになります。6世紀半ばには、クブラトという指導者のもと、アゾフ海北岸からヴォルガ川下流域に広がる広大な「大ブルガリア」を形成しました。しかし、クブラトの死後、大ブルガリアは分裂。主要な二つの集団、ヴォルガ・ブルガールとドナウ・ブルガールが形成されました。

ヴォルガ・ブルガールは、クブラトの息子コトラグ率いる集団がヴォルガ川上流域に定住し、農業と交易を営むようになりました。やがてハザール可汗国の支配下に入り、イスラム教を受け入れ、その後は独立王国を築きますが、13世紀にモンゴル帝国によって滅ぼされました。ヴォルガ・タタール人やチュヴァシ人はその末裔と考えられています。特にチュヴァシ語は、テュルク諸語の中でもブルガール語の特徴を色濃く残していると言われています。

一方、クブラトの息子アスパルフ率いるドナウ・ブルガールは、黒海北岸からバルカン半島へ移動し、ドナウ川下流域に定住しました。東ローマ帝国との戦いを経て、680年に第一次ブルガリア帝国を建国します。彼らは南スラヴ人を支配下に置きましたが、9世紀頃にはキリスト教を受け入れ、次第に南スラヴ人と同化していきました。これが現在のブルガリア人の祖先となった集団です。この過程を踏まえ、ドナウ・ブルガールをプロト・ブルガリア人と呼ぶこともあります。

ブルガール人の多様な末裔

大ブルガリアの崩壊後、多くのブルガール人はハザール可汗国に吸収されました。現在、北カフカスのバルカル人がブルガール人の末裔であるという説もありますが、確証は得られていません。

このように、ブルガール人は、彼らの歴史の中で様々な地域に分散し、様々な文化と融合していきました。ヴォルガ・ブルガール、ドナウ・ブルガール、そしてハザールに吸収されたブルガール人など、それぞれの集団は独自の道を歩み、現代社会に様々な形でその痕跡を残しています。彼らの歴史は、遊牧民の移動と融合、そして国家形成という、ユーラシア大陸の歴史を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

参考文献

城田 俊、恩田 義徳（著）、国際教養学部言語文化学科（編）「ブルガル・ハン名録：ちょんまげと元号」（PDF）『マテシス・ウニウェルサリス』第21巻第2号、獨協大学、2020年3月
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Bakalov, Georgi. “МАЛКО ИЗВЕСТНИ ФАКТИ ОТ ИСТОРИЯТА НА ДРЕВНИТЕ БЪЛГАРИ” [Little-Known Facts From The History Of The Ancient Bulgarians] (ブルガリア語). protobulgarians.com.
小松久男『テュルクを知るための61章』明石書店、2016年
Dobrev, Petar (2001) (ブルガリア語). Unknown Ancient Bulgaria. Sofia: Ivan Vazov Publishers

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