サイエンスカフェ

サイエンスカフェとは

サイエンスカフェは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、科学に関する話題について語り合うイベント、またはその開催団体のことを指します。1990年代後半にイギリスとフランスで同時期に始まり、科学と一般の人々との距離を縮める役割を果たしています。

歴史

サイエンスカフェの起源は、1998年にイギリスのリーズで開催されたものが最初とされています。これは、哲学者マルク・ソーテがパリで始めた哲学カフェに触発されたもので、「カフェ・シアンティフィーク」というフランス語風の名前が付けられました。フランスでもほぼ同時期に、フランス物理学会が主催する形でサイエンスカフェが始まりました。

当初、フランスでは科学者たちが、市民にもっと充実した科学情報を提供すべきだと考えたことがきっかけでした。一方、イギリスでは、科学についてもっと深く知りたいという一般市民の要望が背景にありました。どちらの国でも、大学などのアカデミックな場所からカフェのような日常的な場所へと開催場所を移すことで、より多くの人々が気軽に参加できるようになりました。

イギリスでは、科学理解増進委員会が、一般市民の科学知識不足を憂慮し、啓蒙の必要性を感じていたことも、サイエンスカフェが広まった一因です。当初は新聞などでも半ば冗談交じりに報じられていましたが、狂牛病や遺伝子組み換え食品などの問題が起こるにつれて、市民の関心が高まりました。

近年では、「大衆の科学理解」から「サイエンスコミュニケーション」、そして「科学技術への公衆関与」へと、その焦点は変化してきています。また、高等教育機関の教科として認められるなど、その影響力は行政、研究機関、政治家、教育家、政策立案者など、広範囲に及んでいます。

基本思想

サイエンスカフェは、単なる場所ではなく、その雰囲気も重要です。カフェというリラックスした環境が、科学への心理的な敷居を下げます。講義室のような堅苦しい雰囲気ではなく、誰もが気軽に議論に参加できる、自由な空間であることが重要です。

作家で神経科医のオリヴァー・サックスは、「サイエンスカフェの狙いは、科学を再び文化の中に戻すこと」だと述べています。科学は、もはや退屈で難しいものではなく、私たちの生活に密接に関わる、重要なテーマなのです。

トム・シェークスピアは、サイエンスカフェの本質は知識伝達ではなく、問いを提示することだと指摘しています。参加者にとって研究がどのような意味を持つのか、社会にどのような変化をもたらすのかといった、倫理的、文化的な側面を重視すべきだと述べています。

サイエンスカフェは、それぞれの地域の文化に合わせて多様な形式で行われています。話題提供者の人数や構成、テーマなども様々で、地域住民のニーズに合わせた展開がなされています。

各国における特徴

イギリスとフランスのサイエンスカフェは、参加者同士の双方向コミュニケーションを重視しています。参加者は互いをファーストネームで呼び合い、肩書きは使いません。

イギリスでは、通常一人のゲストスピーカーがテーマについて20分程度の話題を提供した後、休憩を挟んで質疑応答や意見交換を行います。フランスでは、3～4人の話題提供者が短い自己紹介の後、すぐにディスカッションに入ります。

日本における動き

日本では、2004年の科学技術白書で海外の事例が紹介されたことがきっかけで、サイエンスカフェが知られるようになりました。同年には、京都市で国内初のサイエンスカフェが開催され、翌2005年を「サイエンスカフェ元年」と呼ぶこともあります。

2006年には、日本学術会議が全国21か所でサイエンスカフェを開催し、普及に大きく貢献しました。運営形態は様々で、大学や研究機関、自治体などが主催するもののほか、企業が運営する常設のサイエンスカフェも登場しました。

東北大学では、2005年からせんだいメディアテークを会場にサイエンスカフェを開催しており、理学、工学だけでなく、社会科学と関わりの深い分野もテーマに取り上げています。また、人文科学をテーマにした「リベラルアーツサロン」も開催しています。

サロン・ド・冨山房フォリオでは、2006年から毎月サイエンスカフェを開催し、書籍化も行っています。

近年では、サイエンスカフェにオープンイノベーションやイノベーションハブとしての役割も期待されています。コワーキングスペースでの開催事例も出てきており、地域活性化にも貢献しています。

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