サイコ (1998年の映画)

1998年公開のアメリカ映画『サイコ』は、映画史に残る名作として知られるアルフレッド・ヒッチコック監督による1960年版『サイコ』のリメイク作品です。オリジナル版をほぼ完全に再現することを目指し、脚本、演出、音楽に至るまで、細部にわたって1960年版を踏襲しています。撮影スケジュールもオリジナル版に倣い、ヒッチコック監督が自身で出演していたカメオシーンも再現するなど、徹底した忠実さを追求しています。

ただし、白黒映画だったオリジナル版とは異なり、本作はカラー映画として制作されました。カラー化されたことで、より鮮やかな映像美が実現するとともに、現代の技術を駆使した演出も取り入れられています。例えば、オリジナル版では技術的に不可能だった、フェニックス市街の俯瞰からホテルの一室内へのワンカット撮影が実現。また、マリオン・クレインがシャワー室で刺殺されるシーンでは、オリジナル版では1秒にも満たなかったショットが数秒に拡大され、排水口からのオーバーラップや360度回転するカメラワークなど、より詳細でスリリングな描写が加えられました。さらに、デジタルアニメーションで再構成されたタイトル映像は、テーマ曲と見事にシンクロしています。ノーマン・ベイツの母親の顔は、特殊メイクの第一人者であるリック・ベイカーの手によってリアルに再現されています。

一方で、オリジナル版と異なる点もあります。最後の心理学者の説明は簡略化され、マリオンの死の直前に見た幻覚シーンが追加されています。また、探偵がとどめを刺される直前に「母親」の影を目撃するシーンや、マリオンの瞳孔が開いていくカットなど、オリジナル版にはない演出が加えられています。音響面でも、最後の母親の独白にノーマンの声がサラウンドチャンネルから聞こえるなど、臨場感あふれる効果音が使用されています。劇中に使用されたキッチンナイフは、映画監督のジョン・ウーが所有するものでした。

キャストは、オリジナル版とは異なります。ノーマン・ベイツをヴィンス・ヴォーン、マリオン・クレインをアン・ヘッシュ、ライラ・クレインをジュリアン・ムーア、サム・ルーミスをヴィゴ・モーテンセン、アル・チェンバース保安官をフィリップ・ベイカー・ホールらが演じています。日本語吹替版も豪華な顔ぶれが揃っており、平田広明、小林優子、勝生真沙子といったベテラン声優陣が参加しています。

しかし、このリメイク版は批評家や観客の双方から酷評を受けました。ゴールデンラズベリー賞においては、最低リメイク賞、最低監督賞、最低助演女優賞（アン・ヘッシュ）の3部門にノミネートされ、最低リメイク賞と最低監督賞を受賞するという不名誉な結果に終わっています。オリジナル版の輝きを再現することにこだわり過ぎた結果、オリジナル版へのリスペクトに留まり、独自の解釈や新たな魅力を生み出すことができなかった点が、低評価につながった可能性が考えられます。オリジナル版の完成度の高さが、リメイク版の評価を厳しくした一面もあると言えるでしょう。

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