サイシャット族

賽夏族：台湾の豊かな文化を織りなす人々

賽夏族は、台湾原住民を構成する民族の一つです。古くは「サイセット族」とも表記されていました。2020年8月時点での人口は約6,769人とされ、台湾原住民の中では比較的小規模なグループに属します。新竹県と苗栗県の境界にまたがる地域に居住し、言語は賽夏語を話します。賽夏語の表記においては、大文字Sと小文字sで異なる発音が表現される点が特徴的です。

賽夏族は、新竹県の五峰郷（北賽夏）と苗栗県の南庄郷・獅潭郷（南賽夏）という二つの主要な地域に分かれ、それぞれの方言や文化的な差異が見られます。

神話と祭礼：受け継がれる歴史と伝統

賽夏族の起源神話には、大洪水の後、兄妹が漂流の末に山にたどり着き、妹の遺体を切り分けて人々を創造したという物語が残されています。この神話には、賽夏族の各氏族の祖先と、タイヤル族の祖先に関する記述も含まれています。

賽夏族を象徴する祭礼として、パスタアイ祭りが挙げられます。漢語では「矮霊祭」と呼ばれ、秋の収穫後に、かつて賽夏族に文化を伝授したとされるタアイという精霊を祀る祭事です。記録によって詳細に差異はありますが、タアイの男性が賽夏族の女性を冒したため、賽夏族が策略を用いてタアイを滅ぼし、その後、生き残ったタアイの老人から祭りの儀式と聖歌を伝授されたという物語が広く伝えられています。

パスタアイ祭りは、農作物の豊作や一族の繁栄を祈願する重要な行事であり、3日間にわたって徹夜で行われます。祭りの期間中は、魔除けとしてススキが用いられ、神聖な臼と杵、蛇の鞭（南賽夏）、ハシバミの棒、華やかな旗、尻の鈴など、様々な祭具や儀式が用いられます。これらの祭祀行為は、2013年に「重要民俗文化財」に指定されています。北賽夏と南賽夏では、それぞれ2年に1回、10年に1回は盛大な大祭が行われます。

雷女と龍神：自然と共生する信仰

賽夏族の神話には、雷神からアワの栽培法を伝授された青年と雷神の娘、ワオンの物語があります。ワオンは不思議な力を持つ女性として描かれ、賽夏族の伝統衣装に織り込まれた卍模様は、稲妻を図案化したもので、ワオンを記念したものだとされています。

一方、龍神として崇められるソローは、犬のような足を持つ蛇の姿で描かれ、その毒気は人々を昏倒させるほどの力があるとされています。ソローに関するいくつかの伝承では、ソローを飼っていた賽夏族の人々の体験や、ソローの死体が川を流れ下って客家の村人に被害をもたらした話が語られています。これらの物語は、自然に対する畏敬の念と共生関係を表しています。ソローの遺骨を祀る習慣が、賽夏族と客家の人々、さらにはタオカス族との関係にもつながっているという伝承もあります。

歴史と文化：変遷と継承

清朝の統治下では「南庄化番」と呼ばれ、賽夏語による苗字を名乗り、清朝による支配体制に一定の範囲で従っていました。日本統治時代には、学者の調査によって賽夏族は独自の部族として認識されるようになりました。しかし、賽夏族の起源や一部氏族のルーツについては、タオカス族との関連など、いまだに議論のある部分も存在します。

現在も、賽夏族は独自の言語と文化を守りながら、現代社会の中で独自のアイデンティティを確立しています。

著名な賽夏族の人々

賽夏族からは、政治、メディア、文化など様々な分野で活躍する人々が輩出しています。例えば、元北賽夏族の長老である朱耀宗氏や、台湾行政院原住民族委員会主任秘書を務めた夏錦春氏などが知られています。また、南庄事件で知られる日阿拐は、複雑な歴史的背景を持つ人物として、賽夏族の歴史を語る上で重要な存在です。

賽夏族の文化と歴史は、台湾の多様な文化を理解する上で重要な要素であり、その豊かな伝統は未来へと受け継がれていくことでしょう。

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