サイス

サイース：古代エジプトの謎めいた都

サイスは、古代エジプトを代表する都市の一つです。ナイル川デルタ地帯西部の肥沃な土地に位置し、紀元前8世紀から6世紀にかけて、エジプト第24王朝と第26王朝の首都として栄華を極めました。エジプト語ではサウと呼ばれ、現在ではサ・エル＝ハガルとして知られています。

神話と宗教の中心地

サイスは単なる政治の中心地ではありませんでした。古代エジプトにおいて重要な役割を担った複数の神々の信仰の中心地でもあったのです。特に、女神ネイトはサイスの守護神として崇められており、その信仰は古代エジプト初期の第1王朝まで遡ると言われています。ネイトはギリシア神話のアテーナーと同一視されることが多く、ヘロドトス、プラトン、ディオドロスといったギリシアの著名な歴史家や哲学者たちも、サイスとアテーナー、ひいてはアテナイとの深い繋がりを記しています。

また、サイスはエジプト神話において重要な役割を担うオシリス神とも密接に関係しています。ヘロドトスは、サイスにオシリスの墓があると記しています。オシリスはセトによって殺害され、遺体がバラバラにされたとされる神話があり、その遺体がサイスの近くの湖に投げ込まれたという伝承が残っています。

アトランティス伝説との繋がり

サイスは、プラトンの著作『ティマイオス』と『クリティアス』にも登場します。これらの著作において、サイスはソロンがエジプトの神官からアトランティスに関する話を聞いた都市として描かれています。プラトンは、アトランティスがギリシアやエジプトを軍事的に侵略していたが、大洪水によって滅んだという神官の話を記しています。プラトンによると、アテーナーがアトランティスとアテナイを破壊したとされる大洪水の前にはサイスを建設したとされており、その大洪水でギリシアの多くの都市が破壊される中で、サイスを含むエジプトの都市は生き残ったとされています。さらに、プラトンはエジプト第18王朝のファラオであるイアフメス2世の生誕地もサイスであったと記述しています。

謎めいた碑文と消えゆく遺跡

プルタルコスは、サイスにあるイシス神殿に刻まれた碑文について記しています。その碑文には「私はかつてあり、今もあり、これからもある全てである。そして私のヴェールを人間が引き上げたことはない」という、神秘的な言葉が刻まれていたと伝えられています。

サイスの遺跡は、エジプト新王国時代後期（紀元前1100年頃）以前のものはほとんど現存していません。これは、サイスの建造物に日干しレンガが多く使用されていたため、後世の農民たちがレンガを肥料として再利用したことが大きな原因だと考えられています。

歴史と謎に包まれた都市

サイスは、エジプトの歴史において重要な役割を果たした都市であり、同時に多くの謎に包まれた都市でもあります。その存在は、神話、歴史、哲学といった様々な分野に影響を与え、現代においても人々の想像力を刺激し続けています。オシリス神やネイト神といった神々との繋がり、アトランティス伝説との関連性、そして謎めいた碑文など、サイスには多くの魅力が詰まっており、その歴史を紐解くことは、古代エジプト文明の深淵に触れることに等しいと言えるでしょう。今後の研究によって、さらに多くの謎が解き明かされることを期待したいものです。

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