サウンド・システム

サウンド・システムとは

サウンド・システムとは、野外ダンスパーティーなどで使用される移動式の音響設備、およびそれを提供する集団を指します。特にジャマイカの音楽文化、中でもダンスホールレゲエにおいては、欠かすことのできない存在です。近年では、レゲエ以外の音楽ジャンル、例えばテクノ、レイヴ、ヒップホップなどでも、この形式と名称が用いられています。

構成

サウンド・システムは通常、以下のような要素で構成されています。

巨大なスピーカーセット: 大音量で音楽を再生するための、移動可能な大型スピーカー。
アンプセット: スピーカーを駆動させるためのアンプ。
ターンテーブル: レコードを再生するための機器。
レコード: ダブプレートと呼ばれる特注レコードが多く用いられます。

サウンド・システムを運営する集団は、サウンド・クルーまたはサウンド・マンと呼ばれます。その構成員は、一般的に以下の役割を担います。

セレクター: 曲を選び、かける役割。
MC: 曲の説明や煽りを行い、会場を盛り上げる役割。
エンジニア: スピーカーセットの状態を管理し、良好に保つ役割。
ディージェイ: トースティング（歌うような語り）を行う場合もあります。

MCという役割は、元々はDJが兼任していました。しかし、U・ロイの登場以降、DJがレコーディングアーティストとしての側面を強めたため、専門のMCが生まれました。レゲエにおけるDJは、他のジャンルでのDJとは異なる意味合いを持つようになったため、「ディージェイ (deejay)」と表記されることもあります。

歴史

誕生

サウンド・システムの起源は、1940年代のジャマイカ、キングストンのゲットーに遡ります。当初は、酒場やバーの経営者などが、店の前にスピーカーを持ち出し、アメリカのリズム・アンド・ブルースやブギウギなどを流していました。当時、ジャマイカではオーディオセットが普及していなかったため、サウンド・システムは多くの人々にとって貴重な音楽鑑賞の機会となっていました。初期に活躍したサウンド・システムとしては、トム・ザ・グレート・セバスチャン、ウォルドロン、カウント・ニック・ザ・チャンプ、グディーズなどが挙げられます。

スカの時代

ジャマイカでスカが多く録音されるようになると、サウンド・システムはダンスを楽しむための娯楽の場へと変化していきました。サウンド・システムのオーナーは、自らレコードレーベルを経営するようになり、入場料や飲食物、レコードの販売によって利益を上げました。スカの誕生によって、レコードレーベル経営者は音楽制作に積極的に関わるようになります。コクソン・ドッドとデューク・リードは、その代表的な存在です。彼らのサウンド・システム、コクソン・ダウンビートとトロージャンは、それぞれジャマイカを代表するレコードレーベル、スタジオ・ワンとトレジャー・アイルへと発展しました。

競争の激化

ロックステディが流行した1960年代後半には、サウンド・システムの数が増加し、競争が激化しました。各サウンドは、スピーカー設備の改良や選曲の工夫、ダブプレートの制作など、様々な面で進化を遂げました。また、ディージェイやセレクターの引き抜き、暴力沙汰なども発生しました。他のサウンドに演奏する曲を知られないように、レコードのラベルを剥がすなどの行為も行われていました。

世界への拡大

1948年から1962年までの間、連邦移民法によって移民が制限されるまで、多くのジャマイカ人がイギリスに移住しました。この大量移民が、サウンド・システムという文化が世界に広まるきっかけとなりました。1964年に始まったノッティング・ヒル・カーニバルは、現在では世界最大のサウンド・システムのイベントとなり、多くの観光客を集めています。1967年には、クール・ハークがニューヨークで自身のサウンド・システム、ハーキュローズを立ち上げ、ヒップホップ音楽の誕生に大きく貢献しました。その後、ジャマイカ系移民が少ない国や地域でも、サウンド・システムは徐々に浸透していきました。日本で初めて活動したサウンド・システムは、1984年にランキンタクシーが立ち上げたタクシー・ハイ・ファイです。

ラバダブとジョグリン

サウンド・システムでは、ディージェイが歌を抜いた曲（バージョン）に合わせて即興でトースティングを行うのが一般的でした。このスタイルが発展し、多くのディージェイが一堂に会して、セレクターのかけるバージョンに次々とトーストしていく「ラバダブ・スタイル」が1980年代に隆盛を極めました。ラバダブでは、サウンドの選曲よりもディージェイのスキルが重視され、その技術がダンスホールレゲエの発展に大きく貢献しました。一方、1990年代前半以降には、2台のターンテーブルを巧みに操り、次々とレコードをかけていく「ジョグリン」というスタイルが流行しました。ジョグリンは、純粋に踊ることを目的とした、ダンスホール本来の魅力を引き出すスタイルとして人気を集めました。

サウンド・クラッシュ

サウンド・システムを特徴づけるのが、「サウンド・クラッシュ」と呼ばれるイベントです。これは、複数のサウンド・システムが、それぞれの持ち曲やダブプレートを交互にかけ、どちらがより観客を盛り上げられるかを競い合うものです。勝敗は観客の歓声の大きさで決定されます。サウンド・クラッシュは、サウンド・システムの腕試しの場として、また、ビッグ・サウンドへの登竜門として重要な意味を持っています。1990年代後半以降は、「ワールドクラッシュ」などの世界大会も開催され、日本のマイティ・クラウンやドイツのセンチネルなど、ジャマイカ以外のサウンドも活躍しています。

現在のサウンド・システム

近年では、音響設備の整ったクラブが増加し、屋内での興行が一般的になったため、サウンド・クルーがスピーカーを所有する意義は薄れてきています。しかし、歴史と経済力のあるサウンド・システムは、依然として巨大なウーハーを所有し、ダブプレートを発注し続けています。また、ターンテーブルとレコードを使用する従来の形式に加え、CDやPCから直接音楽を再生するスタイルも普及しています。

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