サオ・シュエタイッ

サオ・シュエタイッ

サオ・シュエタイッ（1896年10月16日 - 1962年11月21日）は、20世紀ビルマ（現在のミャンマー）の歴史において、伝統的な首長（ツァオパー）と近代国家の指導者という二つの顔を持った人物です。「サオ」はシャン族の王族に対する敬称であり、彼の本名は「シュエタイッ」とされています。彼はシャン州ヤウンウェの最後のツァオパーであり、ビルマ連邦の初代大統領を務めるなど、独立初期の重要な局面に関わりました。

生い立ちと軍務

1896年10月16日、シャン州に生まれたシュエタイッは、タウンジーにあるシャン首長学校で教育を受けました。若くして軍の道に進み、第一次世界大戦中にはイギリス軍の一員として従軍しています。1920年から1923年にかけては、北東辺境地域での軍務に従事しました。その後、1929年に父であるサオ・マウンの死去を受けて、ヤウンウェのツァオパーの地位を継承しました。伝統的な首長としての責任を担う傍ら、1939年から1942年までの期間も再び軍務に就いています。

政治への関与と初代大統領

第二次世界大戦終結後、ビルマの独立に向けた動きが本格化する中で、シュエタイッは政治的な役割を深めていきます。1946年3月、ビルマ本土と少数民族地域との結束を示す重要な会議である第一次パンロン会議に出席し、その後の統一ビルマ文化協会の会長に就任しました。また、同年11月には、独立運動を主導する反ファシスト人民自由連盟（AFPFL）の働きかけにより組織された統一丘陵民族評議会の議長を務め、民族間の連携強化に貢献しました。

1948年1月4日にビルマ連邦が独立を達成すると、サオ・シュエタイッは初代大統領に就任しました。この大統領職は主に象徴的な役割を担い、国家の統一性を内外に示す重要な存在でしたが、国政の実権は首相のウー・ヌが握っていました。

連邦制改革の提唱と最期

1952年に大統領職を退いた後も、シュエタイッは民族議会の議長として政界に留まりました。しかし、独立後のビルマ連邦においては、連邦制の運営や権力配分を巡る課題が浮上していました。特に、シャン州を含む少数民族地域の指導者たちの間では、現状の連邦制が十分な自治権を保障していないという不満が高まっていました。

こうした状況の中、1960年、サオ・シュエタイッをはじめとするシャン州のツァオパーたちは、ビルマ連邦の政治体制が本来あるべき連邦制からかけ離れていると主張し、抜本的な改革案を政府に提出しました。彼らが求めた主な改革内容は以下の通りです。

ビルマ人のための「ビルマ州」を新たに設置し、他の民族州と同等の地位とする。
国会の上院（民族院）において、各州に同数の議席を割り当てる。
* 中央政府の権限を、外交や国防など必要最低限の分野に限定する。

これらの連邦制改革を求める動きは、当時の軍部の強い反発を招きました。軍は国家の統一が危うくなることを懸念したのです。そして、1962年3月2日、ネ・ウィン将軍率いる国軍がクーデターを起こし、政権を掌握しました。この政変により、サオ・シュエタイッは逮捕され、全ての公職から追放されました。さらに悲劇的な出来事として、当時11歳だった彼の息子の一人も、このクーデターの混乱の中で軍によって射殺されました。サオ・シュエタイッ自身は、逮捕から約8ヶ月後の1962年11月21日、収監中にその波乱に富んだ生涯を終えました。

遺したもの

サオ・シュエタイッの生涯は、ビルマが独立を達成し、多民族国家として歩み始めた激動の時代を映し出しています。彼は伝統的な指導者でありながら近代政治に関与し、初代大統領として国家統合の象徴となりました。しかし、連邦制を巡る政治的な対立の犠牲者となり、非業の最期を遂げたことは、その後のビルマ（ミャンマー）における少数民族問題の根深さと、軍部の政治介入の始まりを象徴する出来事となりました。彼の物語は、ミャンマーの複雑な近現代史を理解する上で欠かせない一部となっています。

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