サタニック・マジェスティーズ

ローリング・ストーンズの転換期を象徴する実験作『サタニック・マジェスティーズ』

1967年、ローリング・ストーンズは前作までのブルージーな路線から大きく舵を切り、実験的なサウンドを追求したアルバム『サタニック・マジェスティーズ』（Their Satanic Majesties Request）を発表しました。この作品は、グループ初のセルフプロデュース作品であり、レコーディング・エンジニアにはグリン・ジョーンズが起用されています。

サイケデリックなサウンドと制作過程の困難

『サタニック・マジェスティーズ』は、ストーンズの作品の中でも最もサイケデリックな仕上がりとなっています。ミック・ジャガーは、この作風にはドラッグ使用が大きく影響したと認めており、そのサウンドは当時流行していたサイケデリック・ロックを反映しています。しかし、その制作過程は決して平坦ではありませんでした。レコーディング開始直後、ジャガーとキース・リチャーズは警察に大麻所持の容疑で逮捕され、その後もブライアン・ジョーンズが逮捕されるなど、バンドメンバーは相次いで法律問題に巻き込まれることになります。バンドは裁判による中断を余儀なくされ、メンバー間の不協和音も噂されるなど、困難な状況の中でレコーディングは続けられました。ビル・ワイマンは自著で、当時のグループは精神的にも肉体的にも分裂状態にあったと記しています。この困難な状況の中で、ザ・フーがストーンズの楽曲をカバーするという出来事もありました。また、ブライアン・ジョーンズは恋人アニタ・パレンバーグをキース・リチャーズに奪われるという私的な問題にも直面し、精神的に追い詰められていたとされています。

斬新なアートワークとビートルズとの関係性

『サタニック・マジェスティーズ』のアートワークもまた、サウンド同様にサイケデリックで印象的なものです。オリジナル盤のジャケットには、見る角度によって絵柄が変化する3D写真（レンチキュラー）が使用され、その斬新なデザインは大きな話題を呼びました。このジャケットには、ビートルズのメンバーの顔が紛れ込んでいるという隠された仕掛けも存在し、ビートルズのアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』へのオマージュ、あるいは皮肉とも捉えられています。ジャケットデザインにはメンバー自らも参加しており、3日かけてセットを組み上げたと言われています。

批評家の酷評と後世への影響

『サタニック・マジェスティーズ』は商業的にも成功を収め、アメリカではリリース前にゴールド・アルバムを獲得しました。しかし、その音楽性は批評家から酷評されることになります。多くの批評家は、このアルバムをビートルズの『サージェント・ペパーズ』の模倣であり、失敗作であると断じました。ジョン・レノンもこのアルバムを嫌っていたと伝えられています。

しかし、時が経つにつれ、このアルバムはストーンズのキャリアにおける重要な転換期を象徴する作品として再評価されるようになりました。その実験的なサウンドとサイケデリックなアートワークは、後のアーティストにも大きな影響を与えたことは間違いありません。メンバー自身も、当初は否定的な評価をしていたものの、後に肯定的な見解を示す場面も見られます。

収録曲とメンバーの貢献

アルバムには、ミック・ジャガーとキース・リチャーズによる楽曲を中心に、ビル・ワイマンの自作曲も収録されています。ブライアン・ジョーンズは、メロトロンやシタールなど様々な楽器を演奏し、アルバムのサウンドに貢献しています。しかし、彼が制作過程でバンドを離れるのではないかという噂が流れたほど、その参加状況は不透明な部分がありました。

まとめ

『サタニック・マジェスティーズ』は、ローリング・ストーンズが様々な困難を乗り越え、創造性を追求した結果生まれた、実験的で多面的な作品です。そのサイケデリックなサウンド、斬新なアートワーク、そして複雑な制作過程は、音楽史において重要な位置を占めています。このアルバムは、ストーンズの音楽性の幅広さと、その進化の過程を知る上で欠かせない作品と言えるでしょう。 様々なリイシューを経て現在でも聴くことができるこのアルバムは、時代を超えて人々を魅了し続けています。

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