サフ

エジプト神話の星の神サフ

サフ（Sah）は、古代エジプトの神話に登場する、夜空の星々を司る神です。特に、夜空に輝く壮麗な星座であるオリオン座を神格化した存在として広く知られています。その名は古くから文献に記されており、古代エジプト人にとって небесноの世界と深く結びついた重要な神格でした。

家族と神々の繋がり

サフは、豊穣を司る女神ソプデト（Sopdet）をその配偶者としていました。ソプデトはシリウス星の化身とされる女神であり、ナイル川の氾濫による肥沃な大地をもたらす存在として崇められていました。この二柱の神の間には、戦いの神ソペド（Soped）が生まれました。星の神と豊穣の女神の間に戦いの神が誕生したという神話上の系譜は、古代エジプト人が夜空の運行や自然現象、さらには国家の安全保障といった様々な領域を神々の働きとして捉えていたことを示唆しています。

また、サフは死者の王であり冥界を統べるオシリス神と対応関係にあると見なされていました。サフがオリオン座の化身であることと、オシリス神が夜の世界や再生、そして死後の安寧を司る神であることから、この二柱の神は強く結びつけられました。サフは、この対応するオシリス神が司る領域、特に大地にもたらされる豊穣や、死後の世界における魂の安寧といった事柄に関わっていたと考えられています。

古代からの深い信仰の歴史

サフへの信仰は、古代エジプトの中でも非常に古い時代にまで遡ります。その存在を示す最も古い証拠の一つは、古王国時代、特に紀元前2340年頃から紀元前2320年頃にかけて在位した第5王朝最後の王、ウニスのピラミッド内部に刻された「ピラミッド・テキスト」の中にその名が数多く記されていることです。ピラミッド・テキストは、王の死後の安寧や復活を願う呪文や神話の断片を含む古代エジプト最古の宗教文書であり、そこに頻繁に登場することからも、当時の王権や死生観においてサフが重要な位置を占めていたことがうかがえます。

さらに、紀元前2181年頃から紀元前2055年頃の第1中間期から、続く中王国時代（紀元前2055年頃〜紀元前1650年頃）にかけて作成された木棺の蓋にも、サフとソプデトの夫婦神の図像が描かれています。これは、死者が安らかに旅立つための道具である棺に彼らの姿を描くことで、死後の世界での保護や、星の世界への昇天といった願いが込められていたと考えられます。これらの考古学的な証拠からも、サフが古くから、そして長きにわたり信仰され続けていたことが分かります。

文献に描かれたサフの姿

ピラミッド・テキストにおいて、サフは単に名前が挙げられるだけでなく、具体的な姿や役割が詩的に描写されています。彼は「星座の中に住まうもの」とされ、広大な夜空の世界をそのすみかとしていました。また、「ある季節には地上にあり、ある季節には天空にある」という記述は、オリオン座が一年を通して夜空に見える時期とそうでない時期があるという実際の星の動きを反映していると考えられています。さらに、サフは「星々の海の中で舟を漕ぐもの」としても描かれました。これは、古代エジプト人が夜空を広大な水域、すなわち「星の海」と見立て、神々や太陽がその中を船で航行するという宇宙観を持っていたことに関連しています。

まとめ

このように、エジプト神話のサフは、夜空の象徴であるオリオン座の神格として、古代エジプトの宗教観において多層的な意味を持つ存在でした。星の運行、豊穣、死後の世界といった重要な概念と結びつき、王のピラミッド・テキストから一般の人々の棺まで、様々な形でその信仰の痕跡を見ることができます。サフは、古代エジプト人が見上げた夜空の中に、神々の力と宇宙の秩序を感じていたことを教えてくれる神格の一つと言えるでしょう。

関連事項

エジプト神話
ソプデト（妻にあたる神）
ソペド（子にあたる神）
オシリス（同一視された神、関連の深い神）
イシス、ホルス（オシリス神と関連する家族神）
星座（オリオン座など、サフと関連する概念）
* オリオン座

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