サミール・アミン

サミール・アミン：世界資本主義システムと周辺部の経済学者

サミール・アミン（1931年9月3日-2018年8月12日）は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍した、エジプト出身の世界的に著名な経済学者です。カイロ生まれ、ポートサイド育ちで、フランスのパリで政治学、経済学、統計学を学びました。彼の学問的生涯は、マルクス経済学を基盤としながら、世界資本主義システムにおける中心国と周辺国の関係を深く分析することに捧げられました。

若きアミンはフランス共産党に所属していましたが、その後は距離を置くようになり、毛沢東思想やクメール・ルージュの思想にも影響を受けたとされます。彼の思想形成には、多様な政治的、経済的視座が複雑に絡み合っていたことが伺えます。

アミンの最も重要な貢献は、マルクス経済学の枠組みの中で「従属理論」を展開したことでしょう。アンドレ・フランクやフェルナン・カルドーゾらと相前後して、彼は世界資本主義システムにおける中心と周辺の関係を分析し、周辺諸国が中心国によって搾取されている構造を明らかにしました。中心国が周辺国から資源を搾取し、低賃金労働力を利用することで富を蓄積する一方、周辺国は発展の機会を奪われ、貧困に陥るというメカニズムを、彼は詳細に分析しました。

アミンの代表的な理論は「中心＝周縁論」です。これは、世界資本主義システムを、経済的に支配的な「中心」と、資源供給や低賃金労働力の供給に限定された役割を担う「周縁」に分けて分析する理論です。この理論は、80年代には影響力が低下したものの、イマニュエル・ウォーラーステインの世界システム論にも大きな影響を与えました。ウォーラーステインの世界システム論は、アミンの理論をさらに発展させ、現代世界経済の構造をグローバルな視点から分析する枠組みを構築しました。

アミンは、単に理論を構築するだけでなく、開発途上国の現実問題に対しても強い関心を寄せていました。彼の著作は、世界経済における不平等構造を批判的に分析し、開発途上国の自立と発展のための戦略を模索するものでした。また、アラブ世界における経済問題や政治状況についても、多くの著作を発表しています。

彼の著作は多数存在し、邦訳されたものだけでも『不等価交換と価値法則』『世界的規模における資本蓄積』シリーズ、『帝国主義と不均等発展』『世界は周辺部から変る』『現代アラブ――経済と戦略』など、多岐に渡ります。これらは、アミンの思想を理解する上で貴重な資料となっています。これらの著作を通して、彼は世界経済の構造的矛盾を鋭く指摘し、より公正で持続可能な世界経済システムの構築を訴えました。

2018年、パリで86歳で亡くなりました。彼の死は、世界経済学界に大きな損失をもたらしました。しかし、彼の残した著作は、現代世界経済を考える上で、今もなお重要な示唆を与え続けています。アミンの理論は、グローバリゼーションの進展や新たな地政学的状況の変化といった現代の課題を理解する上で、依然として重要な意義を持ち続けていると言えるでしょう。彼の研究は、未来世代の研究者や政策決定者にとって、貴重な指針となるに違いありません。

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