サム・ブラウン・ベルト

サム・ブラウン・ベルトとは

サム・ブラウン・ベルトは、肩から斜めに掛けられたストラップ（斜革・負革）によって、幅の広いウェストベルトを支える構造を持つベルトです。主に軍隊や警察の制服に装着され、刀や拳銃といった装備品を携帯するために用いられます。英語では”Sam Browne”と略されることもあります。日本では他の形式のものも含めて革帯と呼ばれ、用途によって刀帯あるいは拳銃帯とも呼ばれます。

起源

その起源は19世紀ごろ、英植民地インドに従軍していた英印軍の騎兵将校サム・ブラウンが考案したとされています。当時のヨーロッパ軍では、将校は常に軍刀を携帯していました。従来の刀帯は、ウェストベルトからスリングで鞘を吊るすものや、負革にフロッグ（剣差し）を着けたものなどがありましたが、戦闘時にウェストベルトがずれやすく、抜刀時に鞘を保持する必要がありました。

サム・ブラウンは、1858年のインド大反乱で左腕を失い、抜刀が困難になった経験から、右肩から掛ける第2のベルトを考案し、鞘とウェストベルトを固定しました。このアイデアは他の騎兵将校にも広がり、やがて標準的な軍服の一部となりました。ボーア戦争では、英国軍とトランスヴァール共和国軍の両軍で使用されました。

歩兵将校は、2本のサスペンダーのようなクロスベルトでウェストベルトを固定する方式を使用していました。この方式は、第5代スタンホープ准男爵サー・バジル・テンプラー・グラハム＝モントゴメリー中尉が考案したとされています。ブラウンがグラハム＝モントゴメリーのアイデアを模倣したのか、また逆なのかという議論はいまだに絶えません。

各国における使用

軍刀を装備する器具として開発された経緯から、伝統的に軍刀を帯びる義務があった将校のみが着用していました。しかし、20世紀初頭にはピストルを支えることが主な目的となり、実用性のある装備品としてよりも、将校の地位を示す装飾品の一つと見なされるようになりました。

イギリス連邦諸国

1900年頃に英国陸軍全軍で将校用装備として採用されたのをきっかけに、英連邦各国もこれに続きました。第二次世界大戦後、サム・ブラウン・ベルトは徐々に使用されなくなりましたが、英国陸軍の多くの連隊では、士官や准士官が儀礼時に装着しています。オーストラリアでは、全ての士官が儀礼用制服に着用する権利が与えられています。

アメリカ合衆国

第一次世界大戦中、アメリカ遠征軍司令官パーシング大将が将校の階級を区別するために採用しました。戦間期から第二次世界大戦直前にかけて標準的な装備となりましたが、1940年に廃止されました。ただし、憲兵隊では後方勤務用のサム・ブラウン・ベルトが規定されています。海兵隊では黒革のサム・ブラウン・ベルトを採用し、将校が特別な儀式の場合のみ着用します。

フィンランド

フィンランド陸軍及び空軍では、「コマンドベルト」ないし「オフィサーベルト」として知られるサム・ブラウン・ベルトが、将校や上級下士官だけでなく、士官候補生も着用していました。現在ではパレードや勤務に用いられる高級将校用の制服で装備されています。

ドイツ

第一次世界大戦後、共和国軍の装備として採用され、ナチス・ドイツ時代のドイツ国防軍でも使用されていましたが、1940年頃に廃止されました。ドイツ連邦軍（西ドイツ軍）では礼装用装備の一種として白いサム・ブラウン・ベルトを採用しました。一方の国家人民軍（東ドイツ軍）は当初ソビエト連邦軍様式の将校用野戦装備の一部として着用していました。

日本

日本陸軍ではほとんど使用されませんでしたが、日本海軍では士官用の陸戦隊刀帯として採用していました。戦後の自衛隊では、警務官が拳銃帯として装備しています。海上自衛隊幹部は、甲武装の際及び帯刀しないで儀仗隊指揮官を務める場合に白いサム・ブラウン・ベルトを着用します。

中国

第二次世界大戦期の中華民国では、軍閥が各々独自の軍服を着用しており、サム・ブラウン・ベルトもしばしば採用されました。国民革命軍では、准尉以上の階級にある将校に装着が義務付けられていました。

警察における使用

サム・ブラウン・ベルトは、世界各国の警察機関でも採用されてきました。現在では儀礼用装備と見なされるようになりつつありますが、装備の重量を分散させる目的で使用されています。

アメリカの警察では、クロスストラップや付属品が除かれたものが一般的です。オーストラリアでは、ビクトリア州警察騎馬隊が白いサム・ブラウン・ベルトを着用しています。日本では1946年から1994年まで使用され、皇宮警察では儀礼服用として使用し続けています。

その他の使用

第二次世界大戦以前には、ナチ党などの政党が制服の一部として取り入れることがありました。また、民間の警備員や交通指導員の制服として使用されることもあります。映画や漫画などのフィクション作品では、警察官や高級軍人の象徴として使用されることがあります。

安全性

サム・ブラウン・ベルトは、装備の重量による警察官の負傷に対する一種の解決法として提案されています。

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