サルヴァトーレ・カンマラーノ

サルヴァトーレ・カンマラーノ（1801年3月19日 - 1852年7月17日）は、19世紀前半のイタリアオペラ界を彩った重要な台本作家です。ガエターノ・ドニゼッティやジュゼッペ・ヴェルディといった巨匠たちに数々の傑作オペラの台本を提供し、その作品は今日でも世界中で愛されています。

生涯とキャリア

カンマラーノはナポリで生まれました。父親は画家ジュゼッペ・カンマラーノであり、自身も当初は絵画や彫刻を学んでいましたが、後に演劇の世界へと転身しました。1830年代からオペラ台本を手がけるようになり、1834年にはエジスト・ヴィニョッツィ作曲の『花嫁』でデビューを飾りました。

1835年からは、ナポリのサン・カルロ劇場の座付台本作家兼上演監督として活躍し、同劇場で初演される作品を中心に台本を担当しました。この時期に、ドニゼッティとの間に深い友情と協力関係を築き、『ランメルモールのルチア』（1835年）、『ロベルト・デヴリュー』（1837年）、『ポリウト』（1838年作曲、1840年パリ初演）といった名作オペラを世に送り出しました。

ヴェルディとの関係もまた、カンマラーノのキャリアにおいて重要な位置を占めています。ヴェルディのために、『イル・トロヴァトーレ』を含む4本の台本を提供し、中でも『イル・トロヴァトーレ』はヴェルディの中期を代表する傑作として高く評価されています。また、ヴェルディが長年作曲を熱望しながらも実現しなかったシェイクスピアの『リア王』の台本作成にも携わっていました。

ヴェルディは台本作家に対して強いこだわりを持ち、頻繁に手紙で指示を送っていましたが、カンマラーノに対しては敬意を払い、その執筆ペースを尊重していたようです。しかし、『イル・トロヴァトーレ』の台本作成中にカンマラーノが急逝した際、ヴェルディはその事実を新聞で知るという事態に見舞われました。未完となった『トロヴァトーレ』は、他の詩人によって補作されました。

台本の特徴と評価

カンマラーノの台本は、長年の舞台経験に裏打ちされたドラマティックな展開の巧みさと、華麗で美しい詩文に特徴があります。エキゾチックな原作の雰囲気を尊重しつつ、聴衆、作曲家、歌手、そして検閲当局のすべてを満足させるという高度な職人技を持っていました。

しかし、その一方で、原作のドラマ展開を大胆に改変することも多く、技巧的なアリアを効果的に配置した従来のオペラの形式から脱却することができなかったという指摘もあります。彼の台本の多くは悲劇作品でしたが、オペラ・ブッファの台本も2作手がけています。これらの作品は、彼の兄ルイージ・カンマラーノによって作成されました。

カンマラーノは、同時代の他の作曲家、ジョヴァンニ・パチーニやサヴェリオ・メルカダンテにも台本を提供しましたが、これらの作品は今日ではほとんど上演されていません。

サルヴァトーレ・カンマラーノは、19世紀前半のイタリアオペラ界において、その才能と手腕を発揮し、数々の傑作オペラの誕生に貢献した重要な人物として、その名を歴史に刻んでいます。

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