サルヴァトーレ・リイナ

サルヴァトーレ・“ベスティア”・リイナ（Salvatore "Bestia" Riina、1930年11月16日生 - 2017年11月17日没）は、イタリア・シチリア島を拠点としたマフィア組織コーザ・ノストラにおいて、絶大な権力を振るったボス（Capo dei Capi）です。「野獣」を意味する「ベスティア」、あるいは「ちびのトト」の通称で知られ、特にシチリア中部の小さな町コルレオーネを出身母体とする「コルレオーネシ」と呼ばれる一派を率いました。マフィア史上、最も長く組織の頂点に君臨した人物の一人として知られています。

生い立ちと台頭

貧しい小作農の家庭に生まれ、正規の教育をほとんど受けることなく、幼少期から家族と共に労働に従事しました。そのため読み書きに不自由し、主にシチリア方言で話したとされます。第二次世界大戦中の1943年、13歳の時に父親と弟が米軍の不発弾処理中の事故で死亡するという悲劇に見舞われます。青年期からは、後にコルレオーネシのボスとなるルチアーノ・リッジョの配下として犯罪に手を染め、頭角を現していきました。しかし、リイナが力をつけるにつれて、リッジョは彼を危険視するようになったといわれています。

長期逃亡と権力掌握

リイナは1960年代初頭に指名手配を受けましたが、その後20年以上にわたる逃亡生活を送りました。この間、巧みに警察の追跡をかわし、写真すらほとんど残っていなかったため捜査は難航しました。逃亡中にもかかわらず、比較的自由に街を移動していたという証言もあります。1974年には指名手配中で高額の懸賞金がかけられている身でありながら、部下の妹であるアントニエッタ・バガレッラと教会で結婚式を挙げています。

マフィア関係者の証言によれば、リッジョが1974年に逮捕されて以降、リイナが組織の実権を握ったと広く認識されています。頭脳明晰だったとされるリイナはリッジョの組織を受け継ぎましたが、一部資料では獄中のリッジョがなお影響力を持っていたという説や、リイナとベルナルド・プロヴェンツァーノが共同で組織を運営し、リッジョを排除したという説もあります。リイナはプロヴェンツァーノより賢く、組織内の地位も上であったとされ、重要な決定を単独で行うようになり、やがて約束されていた共同統治を反故にし、独裁的な支配体制を確立しました。

犯罪活動と「第二次マフィア戦争」

リイナは1970年代初頭から麻薬取引に深く関与し、当初は資金不足から他のファミリーと共同で行っていましたが、後にコルレオーネシはイタリア裏社会で圧倒的な勢力を築き上げます。彼らの戦略は、組織の隠密性を保ち、構成員を他のファミリーに明かさないことにありました。さらに、他のファミリーの構成員を殺害した後、自派の人間を送り込むことで、内側から敵対組織を崩壊させ、勢力圏を拡大するという冷酷な手法を用いました。また、コロンビアの麻薬カルテルとも協定を結び、大規模な麻薬密輸を展開しました。

リイナ率いるコルレオーネシは、組織内の委員会を通じた協議を無視し、自らの意に沿わない人物を次々と暗殺しました。この強硬な姿勢は他のファミリーの反発を招きますが、リイナは1980年代にステファノ・ボンターテ、サルヴァトーレ・インツェリッロといった有力ボスの排除を計画・実行し、彼らの影響力を削いで孤立させた末に殺害しました。これらの抗争は「第二次マフィア戦争」と呼ばれ、他のファミリーは壊滅的な打撃を受けるか、国外への逃亡を余儀なくされました。リイナは自派の若手で台頭しそうな人物すら粛清の対象とし、多くの犠牲者の遺体は配下のフィリッポ・マルケーゼによって処理されたといわれますが、後にリイナはそのマルケーゼや腹心のヒットマンであったジュゼッペ・グレコまでも抹殺しました。1970年代から80年代にかけて、稼いだ資金をマネーロンダリングしており、アンブロシアーノ銀行の破綻に関連し、同行頭取ロベルト・カルヴィ暗殺への関与も噂されました。

政界との関係と法曹関係者の暗殺

リイナは、首相在任中からマフィアとの親密な関係が指摘されていたジュリオ・アンドレオッティ元首相との深い繋がりがあったことが知られています。逃亡中のリイナがアンドレオッティと密会していたことも明らかになっており、これがアンドレオッティに対する捜査につながりました。マフィアと政界の癒着を追及していたジョヴァンニ・ファルコーネ判事とパオロ・ボルセリーノ判事が1992年にパレルモで爆殺された事件では、アンドレオッティがその「黒幕」であった可能性も指摘されています。また、リイナ自身がアンドレオッティの暗殺を命じたことがあったという証言もありますが、これはリイナの逮捕により実行されなかったとされています。

逮捕、裁判、そして死

1992年のファルコーネ、ボルセリーノ両判事の暗殺は、イタリア国民の激しい怒りと反マフィア感情を巻き起こし、これがリイナ逮捕の大きな要因となりました。翌1993年、彼は24年間の逃亡の末に逮捕されます。逮捕の決め手は、自身の命を恐れた元運転手の密告でした。逮捕されたリイナは小柄で質素な服装であり、その外見は多くの国民を驚かせました。逮捕後、彼は厳しい裁判を経て、生涯にわたる監禁を意味する26回もの終身刑を宣告されます。彼の逮捕後、警察は6000万ドル、さらには9600万ドル相当に及ぶ巨額の資産を押収しました。リイナは収監中にがんと診断され、87歳の誕生日の翌日である2017年11月17日に獄中で死亡しました。

人物像

リイナは身長約160cmと小柄でしたが、頭の回転が速く、陰謀を巡らせることに長けていたといわれます。一方で性格は真面目で、執務時間の多くを自室で指示を出すことに費やしました。かつての配下からは「腐ったリンゴのようだ」と評され、他のボスたちからは最も危険な人物として恐れられました。政府側に寝返ったマフィアからは、「コーザ・ノストラ史上最も凶悪で臆病な男」と呼ばれ、裏切り者に対してはその親族を含む「6歳以上の血縁者は皆殺しにしろ」と命じたという残虐な証言もあります。自身の裁判で、改心者であるトンマーゾ・ブシェッタから非難された際には、「こんなだらしない男とは話したくない」と切り捨てる一幕もありました。妻のアントニエッタは小学校教師で、リイナ逮捕後も彼を擁護する発言をしています。彼の死後、マフィアゆかりの地を巡る観光ツアーが企画されるなど、その生涯は現在も人々の関心を集めています。

を惹きつけています。彼から没収された土地には宿泊施設が建てられている例もあります。

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