パオロ・ボルセリーノ

パオロ・ボルセリーノ（イタリア語: Paolo Borsellino、1940年 1月19日 - 1992年 7月19日）は、マフィアが社会に深く根を張るイタリア、特にシチリア島において、その根絶を目指して戦った勇敢な裁判官です。彼は同僚であり、深い友情で結ばれていたジョヴァンニ・ファルコーネ判事と共に、組織犯罪との熾烈な戦いの最前線に立ち続けました。しかし、その活動は強大な敵の報復を招き、ファルコーネがマフィアの手によって暗殺されたわずか2ヶ月あまり後、ボルセリーノ自身もまた非業の死を遂げることとなります。

生涯とキャリア

1940年 1月19日、ボルセリーノはシチリア島の中心都市パレルモ、その古い地区ラ・カルサの中流家庭に生を受けました。パレルモ大学で法学を学び、1962年には優秀な成績で卒業。翌1963年に父親を亡くした後、彼は裁判官採用試験に合格し、司法の道へと進みます。

キャリアの初期、彼はシチリア島各地（1965年にエンナ、1967年にマツァーラ・デル・ヴァッロ、1969年にモンレアーレ）で裁判官として経験を積みました。1968年に結婚した後、1975年には故郷パレルモに戻り、同僚のロッコ・キンニーチと共に活動を始めます。この地で、ボルセリーノは勢力を拡大しつつあったシチリア・マフィア、コーザ・ノストラとの直接的な対峙を開始しました。

マフィアとの激闘

ボルセリーノはマフィアに関する緻密な捜査を進め、1980年には6つの有力なファミリーに属する構成員の逮捕を含む大きな成果を上げました。しかし、同年には彼の協力者であったカラビニエリ（国家治安警察隊）の隊長、エマヌエーレ・バジーレがマフィアによって暗殺される悲劇に見舞われます。この事件を契機に、ボルセリーノ自身も常時警護される身となりました。

危険と隣り合わせの状況にあっても、彼は友人であるジョヴァンニ・ファルコーネ、そしてロッコ・キンニーチといった志を同じくする治安判事たちと共に、マフィアの実態、特にシチリアおよびイタリア全土における彼らの政治的、経済的なつながりについての調査を粘り強く続けました。しかし、再び悲劇が襲います。1983年、キンニーチが自身の車に仕掛けられた爆弾によって暗殺されてしまったのです。キンニーチの死後、ボルセリーノはアントニーノ・カポンネットが率いる「アンチマフィア・プール」と呼ばれる捜査チームに参加し、組織的なマフィア捜査の一翼を担うこととなりました。

1986年にはマルサーラ地検の長官に就任。担当区域内にはマフィアが多く潜む町トラーパニが含まれており、彼はそこでマフィアのボスたちに対する個人的な反マフィア活動を精力的に継続しました。パレルモにいたファルコーネとの緊密な連携も、シチリア西部における彼の調査活動を大いに支えました。1987年、病気を理由にカポンネットがアンチマフィア・プールのリーダーを辞任すると、ボルセリーノは後任に指名されなかった友ファルコーネに代わり、世論の大きな支持を受けながらそのリーダーシップを引き継ぐこととなります。

悲劇的な暗殺

マフィアとの激しい戦いを続けること約5年後の1992年、長年の盟友であったファルコーネ判事がマフィアによって暗殺されるという衝撃的な事件が起こりました。この悲劇からわずか2ヶ月あまり後の7月19日、ボルセリーノはパレルモ市内のアメリオ通り（ヴィア・ダメリオ）で、母親を訪ねるために停車した自身の車に仕掛けられた強力な自動車爆弾によって、4ヶ月前にファルコーネが亡くなったのと同じように命を奪われました。この事件は「アメリオ通りの虐殺」と呼ばれ、彼を護衛していた5人の警官たちも巻き添えとなって殉職しました（アゴスティノ・カタラーノ、ヴァルテル・コシーナ、エマヌエーラ・ロイ、ヴィンチェンツォ・リ・ムリ、クラウディオ・トライナ）。

死後の評価と遺産

パオロ・ボルセリーノとジョヴァンニ・ファルコーネの両判事は、マフィアに対する大規模な裁判（マキシ・トライアル）での彼らの功績と、組織犯罪との戦いにおける類まれな献身を評価され、2006年 11月13日付の米タイム誌で「過去60年間のヒーロー」の一人に選ばれました。

彼が暗殺される直前、1992年 5月21日に行われたテレビ局のインタビューでは、インタビュアーに対し、マフィアと裕福な実業家、とりわけ後にイタリアの首相となるシルヴィオ・ベルルスコーニのような人物との間の潜在的なつながりについて言及しています。この極めて重要なインタビュー映像は、イタリア国内の主要なテレビ局では不可解なほどほとんど放送されませんでした。2007年時点の情報によれば、このインタビュー映像はオリジナル版の50分から30分に編集されたものが、2000年に衛星チャンネルでたった一度だけ放送されたにすぎません。

ボルセリーノとファルコーネの暗殺を指示したとされるシチリア・コルレオーネ・マフィアの最高幹部、“トト”・リイナは、両判事の殺害を含む数々の凶悪犯罪により終身刑の判決を受け、2017年11月17日に獄中で病死しています。

現代イタリアにおいて、パオロ・ボルセリーノは、1980年代から1990年代にかけてマフィアの暴力によって命を落とした多くの治安判事の中でも、最も重要な人物の一人として記憶されています。彼の存在は、マフィアに立ち向かう人々の勇気と犠牲、そして反マフィア運動の象徴となっています。彼の功績を称え、イタリア国内の多くの学校や公共施設がその名を冠しています。特に、パレルモの玄関口であるパレルモ＝プンタ・ライシ空港は、「ファルコーネ・ボルセリーノ国際空港」と改称され、地元彫刻家トンマーゾ・ジェラーチによる記念碑が設置されており、訪れる人々に彼らの偉業を伝えています。

彼の妹であるリタ・ボルセリーノは、兄の遺志を継ぐ形で政治活動にも関わり、2006年のシチリア州知事選挙に中道左派候補として出馬しましたが、現職に敗れています。

パオロ・ボルセリーノの生涯は、絶望的な状況下でも正義を貫こうとした一人の人間の壮絶な記録であり、マフィアという闇の組織が社会にもたらす暴力と不正に対する警鐘として、今なお多くの人々の心に深く刻まれています。

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