サルヴェ・レジーナ

サルヴェ・レジーナ（ラテン語: Salve regina）は、カトリック教会において古くから大切にされてきた伝統的な祈祷文であり、聖歌（特にグレゴリオ聖歌）のアンティフォナです。日本では「元后あわれみの母」という呼び名で広く知られています。この祈りは、西方教会であるカトリック教会に固有のものであり、プロテスタントや東方教会では用いられません。

カトリック教会の公式な祈りである「聖務日課」において、サルヴェ・レジーナは重要な位置を占めます。一日の最後の祈りである「終課」において、聖母マリアに捧げられる四つの主要なアンティフォナの一つとして歌われます。これらのアンティフォナは教会暦の季節によって使い分けられ、サルヴェ・レジーナは一般的に典礼暦の後半（三位一体の主日から待降節第一主日の前日まで）に用いられます。これは、祈りが教会の公共の祈りとして重要視されていることを示します。

祈りは「元后、あわれみの母、こんにちは」という呼びかけで始まります。現世を「涙の谷」での流浪と捉え、苦難の中にある人間が聖母マリアに助けを求めます。信者は、マリアの「あわれみのまなざし」を自分たちに向け、地上での旅の終わりに、マリアの胎内から生まれた救い主イエス・キリストを自分たちに示してくれるよう願います。「おお、いつくしみ深く、あわれみ深く、甘美な処女マリアよ」と呼びかけを閉じます。この祈りは、困難な人間が、救い主へ導く母マリアに希望を見出し、その取り次ぎにすがる普遍的な心情を表現しています。

サルヴェ・レジーナの起源は11世紀頃とされ、中世以降、カトリック教会内で広く普及しました。かつて日本では「文語体」が使われたこともありましたが、現在では「口語体」の祈祷文が一般的です。この祈りはまた、カトリック信徒による「ロザリオの祈り」の終わりを締めくくる伝統的な祈りとしても知られています。

聖務日課の終課で用いられる聖母マリアのための四つのアンティフォナは、サルヴェ・レジーナの他、「レジーナ・チェリ（復活節）」、「アヴェ・レジーナ・チェロールム（四旬節）」、「アルマ・レデンプトリス・マーテル（待降節から主の奉献の祝日まで）」です。これらは教会暦に合わせて聖母マリアを称えます。

サルヴェ・レジーナは、数世紀にわたりカトリック信者の信仰生活の中心にありました。聖務日課やロザリオで唱えられるこのアンティフォナは、現代においても、苦難を乗り越え、聖母マリアの取り次ぎを通してキリストへの希望を見出すための、慰めと力の源泉であり続けています。

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