サンクタカリス

サンクタカリス

サンクタカリス（学名：Sanctacaris）は、古生代カンブリア紀の約5億1,000万年前から5億500万年前にかけて生息していたと考えられている、化石節足動物の一属です。現在確認されているのは、カナダのブリティッシュコロンビア州にある有名なバージェス頁岩（バージェス動物群）から発見された唯一の種、Sanctacaris uncata（サンクタカリス・ウンカタ）のみです。

形態的な特徴から、サンクタカリスはハベリア類（学名：Habeliida）と呼ばれるグループに分類されており、これは現在のクモやサソリ、カブトガニといった鋏角類の祖先的な、あるいは初期の形を示すと考えられています。

名前の由来

学名「Sanctacaris」は、ラテン語の「sanctus」（聖なる、神聖な）と「caris」（カニまたはエビを意味し、水生節足動物の学名によく用いられる接尾辞）を組み合わせた造語で、「聖なるカニ（またはエビ）」といった意味合いを持ちます。模式種の種小名「uncata」は、ラテン語で「鉤（かぎ）」を意味し、この生物の頭部にある鉤爪状の付属肢にちなんで名づけられました。

形態

サンクタカリスは、最大で体長9.3センチメートルほどに達します。身体は大きく頭部（前体）と胴部（後体または腹部）に分けられます。

頭部: 半円形の背甲に覆われており、この背甲の両後縁は平たい三角形に突き出しています。頭部の前方には一対の眼がありました。頭部の先端腹側には上唇とハイポストーマが複合した構造が見られます。腹面からは5対の二叉型付属肢が前向きに伸びており、後方の付属肢ほど発達しています。これらの付属肢は、細長い外肢と、先端に爪を備えた内肢から構成されていました。これらは現代の鋏角類の触肢や歩脚に相当する器官と考えられています。
頭部付属肢に関する議論: 同じハベリア類であるハベリアには、鋏角に相当する小さな付属肢が頭部先端に見られますが、サンクタカリスの既知の化石からは確認されていません。これは、化石化の過程で失われたか、あるいは元々退化していた可能性が考えられています。また、ハベリアの二叉型付属肢には強力な顎基が見られますが、サンクタカリスでは明確に確認されていません。しかし、内肢が頭部前方中央に密集していることから、顎基に相当する部分が存在したものの、化石の保存状態や頭部の形状によって観察が困難であったと推測されています。
胴部: 長大な胴部は11節から構成されます。各胴節の背板は両縁が後方に尖り、背面中央には一対の隆起がありました。最終胴節以外の各胴節腹面には、それぞれ一対の二叉型付属肢を備えていました。胴部の付属肢は、縁に剛毛が生えた鰭状に発達した外肢と、退化して目立たない内肢からなります。
尾部: 最終胴節の末端からは、扁平なへら状の尾節が突出しており、その後縁には剛毛が並んでいました。

生態

サンクタカリスは、その形態から、海底近くで生活する底生動物であったと考えられています。胴部の鰭状に発達した付属肢を用いて水中を泳ぎ、頭部の付属肢、特に鉤爪のある内肢を使って獲物を捕獲する肉食動物だったと推測されています。頭部付属肢の細長い外肢は、触角のような感覚器官として機能していた可能性も指摘されています。

分類

サンクタカリスは、ユタカリス（Utahcaris）やウィサンゴカリス（Wisangocaris）と共にサンクタカリス科（Sanctacarididae）に分類されます。このサンクタカリス科は、ハベリア（Habelia）が含まれるハベリア科（Habeliidae）と共に、ハベリア目（Habeliida）としてまとめられています。ハベリア類全体は、特に頭部付属肢の構成などの体制から、鋏角類の基盤的なグループ、すなわち鋏角類が初期に分化した際に近い位置にいたと考えられています。

サンクタカリスは1988年の記載当初から基盤的な鋏角類と考えられていましたが、2000年代には一時的にこの見方が否定され、メガケイラ類（現生のカブトガニなどを含むグループの祖先的な仲間）の近縁、あるいはその一員として解釈された時期もありました。しかし、2010年代中期以降に行われたサンクタカリスの再検証やハベリアの詳細な再記載に基づき、サンクタカリス科を含むハベリア類が鋏角類の基盤的な位置にあるという見解が再び有力となっています。

発見と研究史

サンクタカリスは、カンブリア紀研究において極めて重要な化石産地であるカナダのバージェス頁岩から発見されました。模式種であるSanctacaris uncataは、この地層から見つかった唯一の種です。その独特な形態は、初期の節足動物、特に鋏角類の進化を探る上で貴重な情報源となっています。

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