バージェス動物群

バージェス動物群：カンブリア紀の生物多様性を物語る化石群

バージェス動物群は、約5億800万年前のカンブリア紀に生息していた生物群で、カナダのブリティッシュコロンビア州にあるバージェス頁岩から発見されました。この地層は、生物の軟組織が非常に良く保存された化石を産出することで世界的に有名であり、カンブリア爆発後の生物進化の多様性を理解する上で重要な手がかりを提供しています。

発見と研究の歴史

バージェス頁岩は、1909年にアメリカの古生物学者チャールズ・ウォルコットによって発見されました。ウォルコットはその後数年にわたり発掘調査を行い、65,000点以上の化石を収集しました。当初、彼はこれらの動物を既存の分類群の祖先と見なしていましたが、1966年以降、ハリー・ウィッチントンを中心とする研究チームが再調査を行った結果、多くの生物が既存の分類群に当てはまらない、あるいは所属不明であることが判明しました。

この発見は、カンブリア紀の生物相に対する認識を根本から変えるものであり、スティーヴン・ジェイ・グールドの著書『ワンダフル・ライフ』によって広く一般に知られるようになりました。グールドは、既存の動物門の枠組みに収まらない生物を「奇妙奇天烈動物（Weird Wonders）」と呼び、カンブリア紀の生物相の特異性を強調しました。

バージェス動物群の生物相

バージェス動物群には、以下のような多様な生物が含まれています。

アノマロカリス: 当時の最大級の捕食者であり、大きな目と口、そして体を動かすためのヒレを持っていました。
オパビニア: 5つの目と、獲物を捕らえるための長い吻を持つ、奇妙な姿をした生物です。
ハルキゲニア: 背中に棘が並び、管状の脚を持つ、一見すると上下が判別しにくい生物です。
ピカイア: 最古の脊索動物の一つと考えられており、脊椎動物の祖先にあたる可能性があります。

これらの生物は、現生の生物とは大きく異なる形態を持つものが多く、カンブリア紀の生物進化の多様性を示しています。

バージェス動物群の重要性

バージェス動物群は、以下の点で古生物学的に重要な意味を持っています。

カンブリア爆発の解明: カンブリア紀には、多様な動物が短期間に出現したと考えられています。バージェス動物群は、このカンブリア爆発の実態を理解するための貴重な情報源です。
生物進化の初期段階の解明: バージェス動物群には、現生の動物門の祖先にあたる生物や、絶滅した独自の体制を持つ生物が含まれています。これらの生物を研究することで、生物進化の初期段階における多様性や進化の過程を明らかにすることができます。
* 化石保存の特異性: バージェス頁岩は、軟組織が非常に良く保存された化石を産出します。これにより、通常は化石に残らない生物の内部構造や生態を調べることが可能になります。

バージェス動物群は、その特異な生物相と優れた化石保存状態により、古生物学研究において非常に重要な位置を占めています。この動物群の研究は、生物進化の歴史を解き明かし、生命の多様性の起源を理解する上で不可欠なものとなっています。

現在では、バージェス動物群に類似した化石群が、中国の澄江動物群やグリーンランドのシリウス・パセット動物群など、世界各地で発見されています。これらの発見は、カンブリア紀の生物多様性が、特定の地域に限られたものではなく、地球規模で広がっていたことを示唆しています。

バージェス頁岩は、1981年にユネスコの世界遺産に登録され、その学術的な価値が国際的に認められています。

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