サンタルチアの夜

サンタルチアの夜：トムとジェリーと黄色い猫のナポリ大騒動

1966年、チャック・ジョーンズ監督によって制作された『トムとジェリー』の短編作品『サンタルチアの夜』（原題：Cat and Dupli-Cat）は、イタリアの美しい港町ナポリを舞台に繰り広げられる、陽気でコミカルな物語です。

物語は、トムが金盥の舟に乗り、箒を櫂にしてイタリア民謡「サンタ・ルチア」をテノールで熱唱するシーンから始まります。酔いしれたトムは、なんとティーカップの舟で同じ歌を歌うジェリーを発見します。トムはジェリーを捕まえ、近くの船の台所から粉末ブイヨンとミルクを盗み、「特製ネズミスープ」と称してジェリーに飲ませようと企みます。

しかし、ここで予期せぬ展開が。トムがスープを運んでいると、船の台所から手が伸びてきてソーサーを差し出し、トムは何も疑わずスープを乗せます。ところが、その手が持ち去ったのです！トムが気づくと、スープは消えていました。犯人は、黄色い猫でした。

こうして、ジェリーをめぐるトムと黄色い猫のドタバタ劇が始まります。トムはジェリーを捕まえようとしますが、黄色い猫もジェリーを狙っており、三者による激しい追いかけっこがナポリの港と船の上で繰り広げられます。トムは桟橋から海へ落ちたり、黄色い猫に出し抜かれたりと、次々とアクシデントに見舞われます。一方、ジェリーは二人の追跡を巧みにかわし、状況を楽しみながら逃げ回ります。

クライマックスでは、トムと黄色い猫はジェリーによって、お互いの尻尾とひげを桟橋の柱に縛り付けられてしまいます。一方、ジェリーはシャンパンを飲み干して酔っ払い、「サンタ・ルチア」を歌いながらシャンパンの泡で「THE END」の文字を描いて幕を閉じます。

この作品の見所は、何と言っても「サンタ・ルチア」という陽気な歌が物語全体を彩っている点です。トムが歌い始め、ジェリーも歌い、そして最後にジェリーが酔っ払って歌うことで、作品全体に統一感とユーモラスな雰囲気を与えています。また、チャック・ジョーンズ監督独特の演出も光ります。アニメーションのクオリティも高く、ナポリの美しい港町の風景も丁寧に描かれており、見ている者を魅了します。

この作品は、1980年頃、日本テレビ系「木曜スペシャル・おかしなおかしな トムとジェリー 大行進」で放送され、その後も再放送、DVD化、カートゥーンネットワークでの放送（16:9サイズ）など、長年にわたって愛され続けています。

『サンタルチアの夜』は、トムとジェリーの定番の追いかけっこに、黄色い猫という新たな要素を加えることで、新鮮な面白さを生み出している作品です。イタリアの風情、陽気な音楽、そして予測不能な展開。何度見ても楽しめる、チャック・ジョーンズ監督による傑作と言えるでしょう。登場人物それぞれの個性も際立っており、トムの自信過剰、ジェリーの機転の良さ、黄色い猫のずる賢さが、物語に奥行きを与えています。特に、ジェリーが最後にシャンパンで「THE END」を描くシーンは、ユーモラスで印象的な締めくくりとなっています。この作品は、トムとジェリーシリーズの中でも、特に記憶に残る作品の一つと言えるでしょう。

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