サンタンブロージョの祭壇画

サンドロ・ボッティチェッリの初期傑作『聖母子と六聖人』

『サンタンブロージョの祭壇画』の名でも知られる『聖母子と六聖人』は、盛期ルネサンスを代表する画家サンドロ・ボッティチェッリが1470年頃に手掛けたテンペラ画です。ボッティチェッリの現存する最初期の作品の一つであり、彼の芸術的才能の萌芽を示す重要な作品とされています。この祭壇画は、長らくフィレンツェのサンタンブロージョ教会に所蔵されていたと伝えられていますが、絵画の中に聖アンブロージョが描かれていないことから、元々は別の教会の依頼によって制作された可能性も指摘されています。

現在は、フィレンツェのウフィツィ美術館に収蔵されており、多くの美術愛好家を魅了し続けています。

聖母子と六聖人の配置

作品の中心には、大理石の玉座に座る聖母マリアと幼子イエスが描かれています。聖母子は、マグダラのマリア、洗礼者聖ヨハネ、アッシジの聖フランチェスコ、アレクサンドリアの聖カタリナ、そしてメディチ家の守護聖人である聖コスマスと聖ダミアヌスの6人の聖人に囲まれています。それぞれの聖人は、象徴的な持ち物と共に描かれ、マグダラのマリアは軟膏の壺を、聖カタリナはスパイク付きの車輪を携えています。

構図は、フラ・アンジェリコの『サン・マルコの祭壇画』から影響を受けていると考えられています。玉座の聖母を両脇の聖人が囲み、前には二人の聖人が跪くという配置は共通しています。本作品でも同様に、最初の4人の聖人は立った姿で聖母の両側に描かれ、残る2人の聖人は聖母の前で跪いています。

メディチ家との繋がり

特に注目すべきは、聖母の前に跪く2人の聖人です。画面左の聖コスマスは鑑賞者の方を向いており、画面右の聖ダミアヌスは聖母子を見上げています。これらの聖人の存在は、祭壇画がメディチ家と関係のある人物の発注によるものである可能性を示唆しており、聖コスマスと聖ダミアヌスは、それぞれロレンツォ・デ・メディチとその兄弟ジュリアーノ・デ・メディチの肖像画であるという説も有力です。

制作過程における変更

2018年から2019年にかけて行われた修復と科学的分析によって、作品の制作過程における変更点が明らかになりました。たとえば、幼子イエスの位置は最初の下描きから大幅に変更されており、また、聖コスマスも当初は聖母を見上げるように描かれていましたが、最終的には鑑賞者の方を向くように変更されています。

さらに、聖カタリナの衣装の中央部分からは、奇妙な一対の目の痕跡が見つかりました。これはボッティチェッリが当初、聖カタリナを跪いた姿で描こうとしていた可能性を示唆しています。これらの発見は、ボッティチェッリが制作の過程で、絶えず作品を再考していたことを物語っています。

作品の来歴と帰属

本作品は、16世紀に入ってから何度か塗り直しが行われ、特に聖母子像に変更が加えられたことから、一時的に帰属が疑われた時期がありました。しかし、ヘルマン・ウルマンが最初にボッティチェッリの作品として提唱して以降、現在ではボッティチェッリの作品として広く認知されています。

1808年には、ギルランダイオの作品としてフィレンツェのアカデミア美術館に移され、1946年にウフィツィ美術館に所蔵されることとなりました。1992年の修復によって、ボッティチェッリの真作であることは疑いの余地がなくなり、2018年から2019年にかけての修復と科学的分析によって、作品の制作過程に関する新たな事実が明らかにされました。

まとめ

『聖母子と六聖人』は、サンドロ・ボッティチェッリの初期の傑作であり、彼の卓越した芸術的才能を示す重要な作品です。聖母子を中心に、6人の聖人が配置された壮麗な構図や、制作過程における様々な変更点など、見どころが豊富です。また、メディチ家との関係や、ボッティチェッリ独自の制作手法など、美術史的にも興味深いポイントが数多く存在します。ウフィツィ美術館を訪れた際には、是非ともこの傑作を鑑賞し、ボッティチェッリの芸術世界に触れてみてはいかがでしょうか。

参考文献
Gloria Fossi, Uffizi, Giunti, Firenze 2004.

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