サン＝ラザール駅 (モネ)

サン＝ラザール駅：モネの印象派における都市風景の描写

クロード・モネは1877年、パリのサン＝ラザール駅とその周辺を題材に、印象派を代表する連作を制作しました。この作品群は、単なる風景画にとどまらず、近代都市の活気と光の効果を捉えたモネの革新的な視点が凝縮されています。

モネはアルジャントゥイユを一時離れ、パリで制作活動を行いました。サン＝ラザール駅構内での写生許可を得るため奔走し、駅近辺にアトリエを借りて約3ヶ月間、精力的に作品制作に励みました。この期間に生まれたサン＝ラザール駅連作は、ウィルデンシュタイン作品番号でW438からW449まで、計12点の作品で構成され、その一部は同年4月に開催された第3回印象派展に出展されました。

これらの作品は、駅舎、プラットホーム、蒸気機関車、そして駅周辺の風景など、多様な視点からサン＝ラザール駅を描写しています。例えば、『サン＝ラザール駅、ノルマンディーからの列車』やナショナル・ギャラリー所蔵の『サン＝ラザール駅』では、ノルマンディー線のプラットホームが描かれており、『サン＝ラザール駅、列車の到着』やオルセー美術館所蔵の『サン＝ラザール駅』では、オートゥイユ線のプラットホームが表現されています。いずれの作品も、ガラス屋根の下で行き交う黒い蒸気機関車や、その活気ある様子が印象的に描かれています。

一方、『サン＝ラザール駅、外の光景』(W446) は駅舎の一部と駅外の景色を、『ヨーロッパ橋、サン＝ラザール駅』、『サン＝ラザール駅、外の光景』(W447)、オルセー美術館所蔵の『サン＝ラザール駅』では、駅に隣接するヨーロッパ橋を捉えています。また、『サン＝ラザール駅の外、陽光の効果』と『サン＝ラザール駅の外、列車の到着』は、同じ構図を用いて描かれた作品です。

モネのサン＝ラザール駅連作は、単に駅という建造物を描くだけでなく、近代産業のシンボルである蒸気機関車や、それによって生み出されるダイナミックな空間、そして光と影の複雑な織りなす都市風景を、独自の視点と卓越した技法で描き出しています。印象派特有の光と色の表現が、近代都市の活気に満ちた風景に新たな息吹を与え、見る者に強い印象を与えます。光の変化による風景の微妙なニュアンス、空気感、そして動的な列車の発着シーンは、モネの類まれな観察眼と表現力を示しています。

これらの作品は、モネが近代都市をどのように捉え、表現したのかを知る上で、非常に重要な作品群と言えます。また、印象派絵画における、都市を主題とした作品の先駆けとして高く評価されています。モネのサン＝ラザール駅連作は、現在でも世界中の美術館に収蔵され、多くの人々を魅了し続けています。

参考文献

中野京子『印象派で「近代」を読む 光のモネから、ゴッホの闇へ』NHK出版〈NHK出版新書〉、2011年
安井裕雄『もっと知りたいモネ 生涯と作品』東京美術、2010年

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